株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
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山本 徹(やまもと・とおる)
フーディソン 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学卒業後、不動産デベロッパーに入社。現社外取締役の諸藤と出会い、SMSを創業し取締役に就任。同社退社後に一人の漁師との出会いから水産業界の構造疲弊を知る。13兆円の市場がある水産流通が労働集約的であり効率化できる余地があることに注目し、2013年にフーディソンを創業。水産流通において水揚げしてから胃袋に入るまでの間にある機能を最適にマッチングするプラットフォームの提供をめざす。
きっかけは一人の漁師との出会い
日本人の魚離れが言われるようになって久しい。その一方で、最近ではその健康・美容効果に注目が集まったり、和食の話題化もあいまって魚食文化そのものが再評価されるなど、前向きな動きも見られている。
とは言え、現時点では好景気とは言えない水産業界。そこにあえて新規参入したのが、FOODiSON(フーディソン)だ。「ITで水産流通のプラットフォームを再構築することで、水産物の食をもっと楽しくする」というビジョンを掲げる同社は、創業者の山本徹氏が一人の漁師と出会ったことをきっかけに生まれた。
「以前勤めていた会社を辞めた後、これまで経験したことのない分野で起業しようと、テーマやきっかけを探っていました。そんな折に出会った漁師さんが『漁をしているサンマの値下がりが激しくて、船の燃料代も出ない。子どもには絶対に継がせない』と言うわけです。命をかけて海に出ても、サンマ1匹あたり1円~3円程度の値しかつかないらしい。そんな水産業界のひずみを耳にして、大きな問題意識を持ちました」と山本氏。
国内市場は13兆円と大きいことに加え、自分の周りに水産ビジネスで起業している人はいない。独自性が発揮できると思った。さらに、ITがほとんど取り入れられていないことも、水産業界に参入した理由の一つだという。「プログラミングなど専門技術はありませんでしたが、前職の仕事を通じて、一定のITリテラシーは身に付けていました。これを生かせば、まったく経験のない水産業界でも独自性を発揮し、居場所や存在意義を見つけられると思いました」と山本氏は話す。
フーディソンがめざすのは、ITを活用した水産流通のプレーヤーとしてナンバー1になること。全国の産地で獲れるさまざまな旬の水産物を、新しい情報共有・物流体制によって、より新鮮な状態で流通させる場を構築する。そうすることで、産地(漁師)が適正な利益を得ることができ、飲食店・小売店の業務が効率され、消費者がよりおいしい魚をより便利に手に入れることができる状態を実現しようとしている。
水産業界で受けいれられた理由
起業を決めてすぐ、山本氏は築地市場で最も大きな荷受会社の社長と面談をした。「僕らがめざすゴールと、そのために何をやろうとしているのかを明確に伝える必要があると思いました。すると、実は課題認識は業界内も同じであることが分かりました。最適化したい気持ちはあるものの、これまでは、その実現に必要な人材やスキルが十分ではなかったのだと。業界の方々と話をする中で、フーディソンという企業の存在意義を確信することができました」。
業界の理解を得る上で明確にする必要があったのは、フーディソンは流通構造内の役割分担をITで再分配しようとしているのであって、流通を担う既存のプレーヤーの仕事を奪おうとしているのではないということだった。「BtoBで水産物を販売する場として、築地市場や大田市場以上に適した規模・機能の場所はなく、ITがそれに取って代わることはできない。漁師に代わって魚を獲ることもできません。ITが得意とするのは、情報流通です。例えば、手書きだった注文伝票を、簡単に作成できるツールを提供することなどが挙げられます」。
物流そのものを担うのではなく、物流にITを掛け合わせることで効率化・最適化する。フーディソンが“アウェイ”の環境で受け入れられたのは、業界内における自らの役割分担を明確化したことによるところが大きい。
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