REASON 3 「コンテンツ」認識の変化(環境要因)
そして、最も重要な理由は、「何が“コンテンツ”なのか」という認識が大きく変わったという点にあります。
この認識の変化は、言うまでもなくSNSの普及が大きな要因です。近年のSNSの普及によって「自分の周り、半径3メートルで起きていること」がコンテンツになったことで、受け手と送り手の境目が曖昧になりました。
ブログや口コミ、SNSといったCGM(Consumer Generated Media)の台頭で、受け手側の情報発信が大きな影響を持つ一方で、送り手側の主語を明確にしたコンテンツに関しては、バカバカしいことを大げさに表現することも含めて、それなりに時間と手間がかかったコンテンツが支持されているように思います。確かに、機材や編集コストは下がりましたが、実はコンテンツそのものをつくる労力そのものは変わっていない、ということです。
送り手の立場で考えると、(特に日本においては)15秒や30秒という制約のあるテレビCMと比べて、Web動画に関しては時間の制約がない分、コンテンツをつくるために必要とされる本来のコストはむしろ高くなっています。
しかしながら、広告ビジネスの構造から、本来制作に必要なコストを投下できない、という現実問題もあり、結果として動画の粗製濫造を招いている、というのが現在の状況です。
まずは共感の設計が重要に体験=動画の位置づけ
動画とテキストの最も大きな違いに、“動画は時間軸を持っている”ことが挙げられます。したがって、動画をデザインするためには、どのように時間を扱うか、リアルタイム(同期的)なのか非同期的なのか、という視点が重要。
例えば、プロジェクションマッピングは場所とリンクさせることで、「いま、ここ」性の高い体験を提供しています。
一方で、ニコニコ動画は、動画そのものはリアルタイムでありませんが、“コメント”にはリアルタイムなものと、そうでないものが混在しており、結果として「リアルタイムでないのに、リアルタイム感があり、かつ、いつでも楽しめる」という設計になっています。
いま、さまざまに取り上げられているバズ系動画においても、「動画そのものがどのような時間軸を扱っているか」と、「それを見ている視聴者が、どのような時間軸にいるか」という視点で点検すると、新しい視座が開けてくるかと思います。具体的なコンテンツデザインとしては、上記で述べたように、時間軸という考え方が重要になりますが、とはいえ、そもそもの部分では決して楽観的に捉えることはできません。
受け手側と送り手側の動画が混在する現在において、概算ですが、1日でYouTubeにアップロードされる動画は、時間にして50年分ほどになります。どれだけ良質な動画コンテンツをつくったとしても、それが視聴者に届く可能性は絶望的に低いと言わざるを得ません。
確かに、技術的な環境や、視聴者の認識は動画に向かっています。この傾向は今後も拡大することはあっても、衰退することはないでしょう。そのようななかで、どう動画に取り組めばよいか。より具体的には、動画はテキストと異なった“体験”を提供することができます。マーケティング活動のなかで、どのような“体験”を提供するのか。
そのためには、どのようなコミュニケーションや動機付けを設計していくか、という議論のなかで、“体験”=動画を位置づけていくことが重要な視点となってくるように思います。
本記事の詳細、その他の企業事例については『宣伝会議』2016年1月号をご覧ください。
大屋友紀雄氏
NAKED Inc.
1997年、村松亮太郎らとともにNAKED Inc.を設立。
コンテンツプロデュース/クリエイティブ・ディレクションとともにコミュニケーション・プランニングを中心に活動。
主な仕事に、auスマートパスpresents『進撃の巨人』プロジェクションマッピング
『 ATTACKON THE REAL』「ニコニコ超会議2015 NTTブース『NTT 超未来研究所Z』」他多数。
宣伝会議「動画プランニング実践講座」の講師も務める。
2016年3月開催【動画プランニング実践講座】
『宣伝会議』2016年1月号
12月1日発売
定価1300円
巻頭特集 マーケティング・テクノロジーの未来
いまや企業活動の全体像をも変えようとしているテクノロジーのインパクト、それによってもたらされる近未来のマーケティングについて、業界のキーパーソンたちが語ります。
- テクノロジーによってマーケティングはどう変わるのか
- 資生堂が挑む データドリブンカルチャーの醸成
- テクノロジー時代に求められるマーケターの条件
- 最新テクノロジーとマーケティングへの応用可能性
- 【IoT】【人工知能】【フィンテック】
- ブラックボックスだったテレビCMの効果をテクノロジーで徹底検証