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優れたものづくりだけでは足りない
価値を知ってもらうための発信に力を注ぐ
世界を魅了する和太鼓のプロ集団「鼓童(こどう)」「TAO」「和太鼓 倭(やまと)」。生演奏を聞いたことがない人でも、その名を耳にしたり、テレビや雑誌などメディアで見かけたことがある人は多いのではないだろうか。そんな彼らのステージを支えているのが、石川県白山市に拠点を置く浅野太鼓楽器店がつくる「浅野太鼓」だ。通常の太鼓は、長い時間打ち続けていると革が緩み、音に影響をきたしてしまう。しかし、浅野太鼓は90分間叩き続けても音質が安定しているため、プロの奏者からの信頼が厚い。
その浅野太鼓楽器店がつくる、一つの太鼓で二つの音色を奏でることのできる桶太鼓「奏(かなで)」が今秋、日本デザイン振興会の「2015年度グッドデザイン賞」を受賞した。これまで、2000年、2001年、2003年と和太鼓で同賞を受賞してきたが、さらに今回は、「グッドデザインベスト100」にも選出され、高い評価を得た。
話題はこれだけではない。最近では、2020年の東京オリンピックに向けて建て替え工事が始まった国立競技場周辺に立っていた樹齢150年前後の大ケヤキを同社が引き取り、和太鼓にして音楽として蘇らせるプロジェクトを進めている。和太鼓を含め、伝統工芸が世の中で注目される機会は、そう多くない。しかし、浅野太鼓楽器店は、メディアが取り上げたくなる話題・コンテンツを定期的に発信し続けている。その秘訣とは、一体何なのだろうか。
伝わらなければ、オンリーワンになれない
「どうしたら浅野太鼓を取り上げてもらえるか、寝ても覚めてもそればかり考えています。ただものづくりをして伝承するだけなら活力は生まれないし、社会的にも認知されない。伝えることがとても大事だと思っています」と話すのは、代表取締役専務の浅野昭利氏。自社に「インパクトを生み出す力」が必要だと考え、1999年からグッドデザイン賞へのエントリーを始めたという。過去3回、受賞した時には日経新聞に全面広告を出稿し、情報発信をして企業価値の向上を図った。
「デザイナーの山本寛斎さんのショーで使ってもらったり、皇太子と一緒に写真を撮ってもらったり、浅野太鼓と東京新聞・青山劇場の3社で『東京和太鼓コンテスト』を10年にわたって開催したりと、イベントにもさまざま取り組んできました。技術的に、ものづくりを極めるだけでは不十分なのです。レベルの高い太鼓づくりと同時に、全国的に活躍する奏者を育成し、コンサートをしながら音色とともに情報発信にも注力すること。これらがトータルにできて初めて、人に伝わるものづくりができ、自分たちの生業が“オンリーワン”だと誇れるものになるのだと考えています」。
浅野 昭利(あさの・あきとし)
浅野太鼓楽器店 代表取締役専務
創業400年の太鼓店における太鼓職人であると共に、女性の世界的な太鼓演奏チーム「太鼓」の育ての親でもある。イベントや出版を行う太鼓文化のプロデューサーであり、“音”のパイオニア。浅野太鼓文化研究所理事長。
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