テクノロジー時代にマーケターが生き残る道

マーケターは人工知能に置き換わる

—では現場のマーケターに求められているのは、どのようなことでしょうか。

ジュリアン:やはりいかにデータに向き合うことができるかではないでしょうか。デジタル時代においてデータは“石油”であり、サービスを機能させるための“燃料”とも言えます。これからの時代、単純な集計作業はもちろん、高度な仮説の設定作業であっても、いずれマーケターの仕事の多くは人工知能に取って代わられる可能性は高い。そうした認識を持つことは、現場レベルだけでなく、経営レベルでも必要です。

安部:おっしゃるとおり、まず前提として、やはり組織自体が変わらない限りは、解消しない課題が多い。そもそもモノが売れなくなってくる時代に、マーケティングの重要性はより高まっているという認識を経営者が持つ必要があります。そうした前提を踏まえて言えば、マーケターはまず現実を直視し、危機感を持つことが必要です。

僕は、日本のマーケターは圧倒的に“作業員”ではないかと思っています。自らの仕事が人工知能で代替される時代になる以上、今後はより戦略やクリエイティブな仕事に時間を使うべきです。ただそうした領域すらも、いずれテクノロジーの進化のなかで、人工知能に置き換わっていく可能性もあります。ダーウィンは進化論で「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」と言ったとされますが、さらに言えば、マーケターにはその変化を見通す力が必要です。

つまり、マーケティングの本質を理解したうえで、時代を先回りする先見性や俯瞰性を持ち、いかに“作業員”から脱することができるかが、求められています。

新垣:やはりテクノロジーをいかに活用していくかが求められると思いますが、そこには大きく3つの壁、組織のセクショナリズムとしての壁、コストの壁、そして理解、ナレッジの壁があると感じています。我々のようなテクノロジーベンチャーが提唱する新しいサービスを試行するにあたってのコンセンサスを社内で得ることは、なかなか難しい。3つの壁を一つずつではなく、同時多発的にクリアしていくことが重要で、そうした社内交渉能力もマーケターには必要とされるのではないでしょうか。

ジュリアン:仮説検証のスピードもどんどん高度化していくなかで、実験の検証プロセスもテクノロジーによって短縮されています。ある施策を行うことでどんな効果があり、それはどれだけのインパクトを市場にもたらすのか。そうしたシミュレーションも高速化し、今後は仮説自体もさらに洗練されていくようになると思います。

新垣:マーケティングの本質を理解しながら、データをどう活用していくのかのイメージを持つことも必要です。最近はプロダクトの背景にあるストーリーが重視される風潮がありますが、そのストーリーをプロデュースする能力も、マーケターには求められているのかもしれません。企画から設計、製造などの一連のプロセスをマーケティングとして一気通貫させられるかどうか。そうしたストーリーのプロデュースありきで、データが強みになっていくのだと思います。

安部:これを言ったら元も子もないのですが、人間がいかにデータを活用するかという時代は、そう遠くない将来に終わると思います。ITは“情報技術”ですが、いまは“知能技術”に代わりつつあり、そうなるとテクノロジーが人間を使うようになる。それが5年後か10年後の話になるかはわかりませんが、そうした時代が来ることがわかっている以上、自分たちはいま何をすべきかをまず考えることが重要です。

 

一方でテクノロジーすらもコモディティ化する時代がくるという話もあり、そのとき企業はどのように対応すべきか–。本記事の続きは、『宣伝会議』1月号をご覧ください。



安部 泰洋 氏
フロムスクラッチ 代表取締役社長 CEO

1983年福岡生まれ。人材系ベンチャー企業にて、営業・新規事業・ターンアラウンドの責任者を歴任。その後、リンクアンドモチベーションへ入社し、全社MVPを受賞。フロムスクラッチを2010年に設立。BtoC・BtoB、業種・業態にかかわらず、数々の営業組織・マーケティング組織を変革している。

 


エルマー・ジュリアン・ブローディ 氏
エコノミックインデックス 代表取締役社長兼CEO

香港生まれ、英国・中国・日本育ち。英国籍。日立製作所 核融合加速器開発センター、ヤフー株式会社 経営戦略・ヤフージャパン研究所などを経て、2012年9月に独立・起業。

 


新垣 久史 氏
ファインドパース 代表取締役CEO

2000年富士通グループ入社後、ベンチャーへ転職。2005年デジタルハリウッドにて文科省研究事業に参画し、群衆シミュレーション研究に従事。2013年鳥取大学発ベンチャーとして起業。共著に『大ヒットの方程式』(ディスカヴァー21)。

『宣伝会議』2016年1月号

12月1日発売
定価1300円

巻頭特集 マーケティング・テクノロジーの未来

いまや企業活動の全体像をも変えようとしているテクノロジーのインパクト、それによってもたらされる近未来のマーケティングについて、業界のキーパーソンたちが語ります。

  • テクノロジーによってマーケティングはどう変わるのか
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