支援者の獲得につなげるコンテンツマーケティングの極意

【前回記事】「圧倒的な影響力を発揮している組織が実践する6つの原則」はこちら

NPOをはじめとする非営利組織の最大の課題、マーケティング・コミュニケーションについて3人のプロたちがさまざまな手法を指南する本コラム。第5回は、企業とNPOの組織でマーケターの経験を持ち、公益組織へのコンサル事業などを手掛けるPubliCoの長浜洋二氏が、コンテンツマーケティングをテーマに語ります。

コンテンツマーケティングとは?

画像提供:shutterstock

ここ数年、企業セクターで実践されるようになったコンテンツマーケティング。製品やサービスの購入など、従来は広告により直接的・短期的な成果の刈り取りが可能でしたが、昨今では、広告主側が期待しているようには顧客が動いてくれないのが実情です。その理由としては、スマートフォンやソーシャルメディアの登場など、潜在顧客が接するコミュニケーション端末やメディアが複雑化したり、検索エンジンやソーシャルメディアを活用した能動的・主体的な情報収集が主となったことなどがあげられるでしょう。

こうした中、顧客との接点づくりや育成など、長期的な視点からみた顧客との関係性づくりを促進する手法として登場したのが、コンテンツマーケティングです。時間をかけて顧客との距離を縮めていき、最終的には製品・サービスの購入やファン化を狙っていきます。特に昨今では、コンテンツ生成の場であり、流入の受け皿になるオウンドメディア(自社メディア)との関係で語られることが多くあります。

NPOにこそ必要なコンテンツマーケティング

こうしたトレンドは何も企業セクターだけのものではありません。NPOセクターにおいても、ホームページの開設やソーシャルメディアの活用、Web広告の出稿など、インターネットを活用した団体の認知拡大や受益者・支援者の獲得が一般化してきており、見込み顧客の短期的な獲得から、中長期的な関係性づくりに重点が移行しつつあります。

そもそもNPOが行う事業は、その対象がかなり限定された分野における社会課題の解決や価値創出を目的としているため、当事者意識を持ってもらいにくいという特徴があります。例えば、国際協力の分野では、行ったこともない途上国の子どもたちの支援をいきなりお願いしたとしても、その人が過去に途上国に住んでいたなど、直接・間接的な経験や興味・関心がないと、そのボランティアや寄付などの行動へと一歩を踏み出してもらうことは至難の技でしょう。だからこそ、外堀を少しずつ埋めていくように、継続的に情報提供を行いながら、興味関心を醸成し、見込み顧客にしていかなければならないのです。

このような状況を理解せず、NPOの多くは自分たちの伝えたいことを一方的に伝えてしまっているのが実態です。大事なのは、相手にとって有益な情報を提供するということ。何の文脈も共通の土俵もないまま、半ば押しつけ的に活動情報やイベント情報を発信するNPOが散見されますが、その情報は受け手にとって本当に必要なものなのでしょうか?結果として、NPOから絶え間なく発信される共感の押しつけにより、潜在的な顧客は“共感疲れ”ともいえる状態になってしまっているのです。

支援者ピラミッドとコンテンツマーケティングの活用

ここでは、NPOの支援者獲得を例にあげながら、コンテンツマーケティングの役割について解説します。NPOセクターでは、支援者の獲得にあたり、「支援者ピラミッド」を活用して支援者獲得を行っています(図を参照)。個々のNPOによって、支援のゴールは寄付などの金銭的なものからボランティアなどの人的なものまで幅広く、各階層の対象も異なっていますが、ここでは金銭的な支援である寄付獲得をゴールに設定したとします。

まず、最も存在数が多いのが最下層の「無関心層」です。この層は社会課題の存在を認識していなかったり、社会貢献に対する興味関心も低い人たちです。コンテンツマーケティングは、この層に対して社会課題の存在を知らしめ、様々な分野で活動するNPOへの興味関心を喚起するという役割を果たします。一般的には、検索エンジンやソーシャルメディアなどを経由してNPOのHPに辿り着くことが多いでしょう。前述の国際協力の例では、事業を実施している国に関する文化、人、歴史、生活、食べ物、娯楽、旅行などの情報を盛り込んだコンテンツを量産していきます。コンテンツマーケティングはSEO対策としての効果も併せ持っているため、特にロングテールのキーワードを含むコンテンツを制作して間口を広げることで、無関心層を関心層へと引き上げていくことができます。

関心層に対しては、あまりに欲張ったリード獲得を狙うことは逆効果となるため、団体のミッションや代表者の想い、具体的な事業内容、事業の成果、支援者の声など、より深く団体を知ってもらえるようなコンテンツを提供しながら、定期的な団体HPの訪問、団体Facebookページへの「いいね!」、Twitterでのフォロー、メールマガジンへの登録などへ誘導していきます。中でもメールアドレスの獲得は、関心層を参加者へ、さらに支援者へと直接導いていくためにも不可欠であり、タイミングを見計らいながら勉強会、セミナー、講演会、交流会などのイベントやボランティアの参加、そして寄付へと誘います。こうした関心層から支援層の獲得に至る一連の施策の中では、eBook、ブログ、ソーシャルメディア、動画、ウェビナー、比較表、マニュアル、チェックリスト、インフォグラフィック、ガイド、白書、テンプレート、ワークシートなど、提供するコンテンツの形態や体裁のバリエーションを意識する必要があります。

次ページ 「コンテンツマーケティングの3つのポイント」へ続く

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マーケティング コミュニケーション実践論
マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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