箭内道彦×並河進「『社会のために」は、ブームじゃないぜ!社会×仕事×自分の関係の結びかた』【前編】

クライアントと出演者とも一緒に作っている

並河:箭内さんのお仕事が世に出てきたとき、森永ハイチュウの浜崎あゆみさんが出ているCMシリーズも、タワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」も、企画どうこうよりも明らかに作り方が違うと感じて衝撃的でした。タワーレコードの広告に出てくるアーティストは、広告なんだけどメディアに出ている感じがします。

箭内:「遊び場」って僕は呼んでいます。楽しいことをやって帰ってもらう場所ですね。

並河:最初からそういう場所を作ろうと思っていたんですか?

箭内:全くそんなことはなくて、最初の頃は、出演の依頼もよく断られていました。でも、2年、3年とやっていくうちに、出る人が前の人より面白いものを作りたいと言い始めるようになった。自動的に面白くなる仕組みができていったんです。この仕事で分かったのは、メディアを作ると、人が「出してください」と言ってくれるということ。メディアを持つってすごいことなんだなと、ここで感じたことが、その後「風とロック」のラジオ番組を持つことにつながってます。

並河:僕とクライアントとの関係がすごく変わったのは、2008年の王子ネピアの「nepia 千のトイレプロジェクト」からです。王子ネピアの宣伝トップの方が一緒に飲んでいた時に「便所紙屋にももっとできることがある!」とおっしゃって。そこから東ティモールのトイレづくりを応援するプロジェクトを立ち上げました。今でもこのプロジェクトは続いています。それ以降、色々なプロジェクトをクライアントと立ち上げるようになっていった中で、2011年に震災が起きた。当時の活動についてもお聞きしたいのですが、箭内さんは、震災前から故郷福島の応援をされていましたよね?

名誉欲を捨てるクリエイティブはすごく難しい

箭内:元々、僕は福島が嫌いだったんですよ。「福島には帰らない」とライブで歌っていたくらい。ところがその様子がテレビで放映されて、それを見た福島の地方紙「福島民報」の人から連絡が入ったんです。「福島を嫌いだと言っている人にこそ、今福島を元気にしてほしい」と言って、115周年記念の特集広告企画を頼んできた。そこで書いたのが、「207万人の天才」というコピーです。207万人というのは当時の福島県の人口です。福島の人はみんな何らかの才能を持っているのに、それを隠したり遠慮して表に出さないでいるんじゃないの?というメッセージを、紙面や福島のライブイベントを通じて発信していったんです。だから、震災の時にまず思ったのは、自分の家族や友達が住んでいる町で大変なことが起きたというだけじゃなく、そのイベントに来てくれた何千人もの人たちがきっと苦しんでいるということ。そう考えたら、放っていられないでしょう? 猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」は、とにかく募金を集めないといけないという気持ちで、震災直後の3月17日からレコーディングをして3月20日から配信しました。

並河:あの時は、みんな自分ができることを必死で探していましたよね。

箭内:僕はそれも“被災”と呼んでいて、全国の人たちが無力感に包まれ、苦しんでいたと思います。

並河:僕はあの日、被災地で生まれた子どもたちがいることを知って、その子たちの写真を撮影して映像にする「ハッピーバースデイ3.11」というプロジェクトを立ち上げました。

箭内:この映像は無欲じゃないと撮れないよね。「俺はこんなすごいものを作った」とか、「これで賞をとりたい」みたいな欲があると、こういう映像はすぐ気持ち悪くなってしまう。ただ、この映像には「生きていてほしい」「伝えたい」という欲にはあふれていると思います。こういう名誉欲を捨てるクリエイティブってすごく難しいなと思う。

電通報でも記事を掲載中

※後編は明日12月5日に公開します

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箭内道彦氏(やない・みちひこ)
クリエイティブディレクター。

代表作のひとつであるタワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」キャンペーンは、来年、20年目を迎える。「月刊 風とロック」発行人。また、2011年紅白歌合戦に出場した「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。

 

並河進氏(なみかわ・すすむ)
電通 コピーライター、クリエーティブディレクター。電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。

社会貢献と企業をつなぐプロジェクトを数多く手掛ける。著書に『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『Communication Shift 「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)他。

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