登壇者
- シビックプライド研究会 代表(東京理科大学 理工学部建築学科 教授)伊藤 香織 氏
- シビックプライド研究会(SJ代表、編集家、プロジェクトエディター、デザインプロデューサー)紫牟田 伸子 氏
紫牟田:皆さま、こんにちは。本日は、シビックプライドとは何か、そしてシビックプライドとシティプロモーションの関係、シビックプライドにとってプロモートすることがいかに大事なのかについて、お話します。
自己紹介をしますと、私は美術出版社で美術デザインの本を編集した後、日本デザインセンターを経て、2011年より個人事務所を開設し、デザインプロデュースを行っています。まちと人にかかわる仕事、「物事を編集し、それを可視化、価値化させる」仕事に多く携わっています。
シビックプライド研究会の立ち上げメンバーとして活動し、08年にシビックプライドを育むさまざまな海外のデザインや事象を集めた『シビックプライド』を、また今年9月には国内事例を中心とした『シビックプライド2』を上梓しました。
シビックプライドについて理解するために、まず紹介したいのが、「復興の狼煙ポスタープロジェクト」です。東日本大震災の後、いち早く始まった活動で、その中の一枚のポスターに私は衝撃を受けました。「前よりいい町にしてやる。」のキャッチフレーズと、カメラを睨みつけるように立つ若者の姿。瓦礫の中に立ち尽くすしかない被災者を再生へと奮い立たせる気持ちを代弁したものでした。「前よりいい町にしてやる。」まさにこうした自負がシビックプライドなのです。
シビックプライドとは、簡単に言うと、都市に対する誇りとか自負心というようなものです。「郷土愛」とも少し違います。「前よりいい町にしてやる。」のように、まちをどうしていきたいかというビジョンにかかわるものです。市民一人ひとりがシビックプライドを持ち、自発的に行動するようになれば、都市全体の雰囲気、心地よさが徐々に変わってくるでしょう。
ただ日本の現状を考えてみると、市民一人ひとりが、と言ったときに、「この町は好きだけれど、何かしなくてはいけないの、義務なの?」と感じる人もたくさんいるはずです。ですから、情報を発信する側、デザインする側、都市のプロモーションをする側に工夫が必要で、市民一人ひとりが自発的に「自分たちのより良い生活のために力を発揮したい」と思えるようなプロモーションがあってしかるべきでしょう。
ここで海外の事例を見てみます。オランダ・アムステルダムは文化的にも経済的にもさまざまな良さというものを内包しているまちです。シティプロモーションとなると、「私たちは運河を持っています」とか「美術館がいっぱいあります」とか、持っている物を自慢しがちなのですが、実はそういうことをいくら自慢してもしょうがない、とアムステルダムは結論づけました。そして宣言したのが「I amsterdam」。まちを楽しいと思う人たちがいて、ここで事業を興そうという人もいる。そうした人やコト全てがアムステルダムの一部だ、ということで「あなたもアムステルダムを構成する一員。だから誇りを持って“I amsterdam”と言いましょう」というメッセージが込められています。
このキャンペーンでは、20人の写真家がアムステルダムを撮影して写真集をつくり、市長もこの写真集を携えていろんなまちに行っています。移民も「I amsterdam」と言えば、アムステルダムの市民。これが都市の許容力だと思います。日本は、都市の許容力をもう少し上げなければならないのではないかと感じるときがあります。まちが「あなたたちは、居ていいんですよ。このまちを構成する一人なんです」と言ったとき、何が始まるのかは、今後に期待がかかるところです。
スペイン・バルセロナでは、ロゴマークを作っています。バルセロナの「B」がスマイルになっているマークです。これを使い、さまざまなメッセージを出しています。例えば、ニューヨークでテロがあったときには、「Bはニューヨークを応援しているよ」と広告を出したりして都市に人格を持たせています。それから、「BARCELONA BATEGA!」というコミュニケーションも行っています。これはバルセロナがドキドキするという意味。「あなたがドキドキして夢をもっていれば、バルセロナ市全体がドキドキするまちになりますよ」というメッセージです。Bに真っ赤なハートマークが噴き出すロゴを用い、メッセージを効果的に発信しています。
これらのシティプロモーション事例でポイントとなっているのは、市民が「自分たちのまちの未来を自分たちで描こう」という気持ちになる、ということです。これからの時代、都市のビジョンを共有し、自立的に活動する都市の伝道者を育てていくような、共感型のシティプロモーションが求められていると思います。シティプロモーションというと、どうしてもキャンペーン、ウェブサイト、印刷物、ロゴをつくる、といったところに終始しがちですが、「自分たちのまちの未来を自分たちで描こう」という気持ちになるためのコミュニケーションであることを理解しておかないと、本来の意味のシティプロモーションはできないのです。