小売りをしない、ご当地日本酒を新潟観光の呼び水に—今代司酒造「新潟清酒おむすび」

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第5号(2015年11月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

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地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手がけたクリエイターが自ら解説。今回は、甲信越地方の事例です。

新潟県新潟市は、生産地・加工地・消費地がギュッと近くに寄り添う食文化創造都市。同市の米農家・酒蔵・飲食店が手を「むすび」、米づくりから酒の仕込み、提供までを共に考え、呑んでいただく皆さまをも「むすぶ」お酒にしよう—「新潟清酒おむすび」は、そんな想いから誕生しました。

封シールにある記号は、太陽・山・大地の恵(水)・しぼり・酒・唇・猪口を表していて、OMUSUBI という文字にもなっている。

始まりは、今代司酒造の田中洋介社長と私の共通の知人から、「知り合いの酒蔵が日本酒のデザインができるデザイナーを探している。一度話を聞いてみてもらえませんか」と紹介を受けたこと。ずっと日本酒の仕事をしてみたかったので、嬉しかったのを覚えています。「人と人をむすぶ酒」をコンセプトとするこの日本酒は、新潟市内の飲食店でしか呑むことができません。それも、どんな飲食店でも扱っているというわけではなく、田植えや稲刈り、酒の仕込みに参加してくださったお店(2014年度は約19店舗)のみの限定流通です。「地方創生」なんていう大それたものではありませんが、少しでも多くの人に新潟市へ足を運んでもらうきっかけになればいいなと思っています。この12月には参加いただく酒蔵が1社増え、来年からは2タイプの「おむすび」を楽しんでいただけるようになる予定です。

オリエンを受けたとき、「小売りをしない」ことは、日本酒として今までにない新しい取り組みだと思いました。そこでパッケージデザインは、酒屋などの店頭で並ぶことを考慮した分かりやすい視覚伝達ではなく、商品名をあえてラベル正面に入れないことに。そして参加する酒蔵が今後も増えていくことを想定し、いち酒蔵のアイデンティティを表現するのではなく、日本酒の持つ伝統的イメージを変えるような斬新な表現にしようと思いました。胴ラベルは、「おむすび」のごはんとのりをエレメントに表現。封シールにある記号のようなものは、太陽・山・大地の恵(水)・しぼり・酒・唇・猪口を表しているのですが、実はOMUSUBI という文字にもなっているんです。読めるか読めないか、ギリギリのところに定着させました。デザインを思い切りソリッドな方向へ振ることで、一度見たら忘れない強いコミュニケートができると考えました。

ブランディングデザインの仕事においては、商品自体、プロダクトデザインや食品の味などの開発に参加させていただくことも多いです。いま、地方を活性化させるためには、クリエイションの力が欠かせません。アートディレクター、グラフィックデザイナーのスキルを生かせる領域は年々広がっているとも思います。だからこそ、質の高いクリエイションを世に出せる人材が求められています。デザイン開発においては、さまざまな方向性の検証、細かいディティールの検証を徹底的に行っています。

地域でクリエイションに取り組むことのやりがいは、企業トップと直接対話をしながらブランドをつくり上げることができること。これに尽きるのではないでしょうか。

白井剛暁
クリエイター

アートディレクター、ブランドプロデュースデザイナー。デザインデザイン代表。1975年新潟県三条市生まれ。新潟ADCグランプリ(2015・2014・2008年)など受賞多数。日本グラフィックデザイナー協会会員、新潟アートディレクターズクラブ会員。

CLIENT’S VOICE

地酒を堅苦しいイメージから身近な存在に

ブランディングにおいては、「今代司」という銘柄を擬人化し、性格や見た目を想定しています。制作物やメッセージは、今代司らしい顔をし、今代司らしい言葉を発しているか。そのことに注意しています。伝統産業は、敷居が高く小難しい印象を与えがちですが、地酒は地域資源抜きには語れない身近な存在。「酒は地域を表す」という自負を持ってその「顔」を丁寧にお伝えする上では、物事を捉えやすくする力のあるクリエイティブが欠かせません。

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田中 洋介
今代司酒造 代表取締役社長

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