負のスパイラルから脱却するためには?
このような負のスパイラルから脱却することはなかなか難しいと考えられるが、そのヒントと考えられることをいくつか挙げてみたいと思う。
1)(最低)賃金の上昇:
10月に行われたWorld Marketing Summitでコトラー教授はいくつかの事例を出して賃上げの重要性を説いた。まずは自動車王ヘンリー・フォードが1914年に実施た日給の$2.34から$5.00への賃上げの話である。
詳細はリンク先を参照いただきたいが、フォードは賃上げを通じて自社社員が自社製品を買えない状況から脱却し、結果として優秀な技術者を集め売り上げを伸ばしながら製品を高めることに成功したのである。
従業員に生産性アップなどを要求する場合には労働と見合う報酬を採用するようにしている。コトラー教授はサンフランシスコが最低賃金を全米に先駆けアップして$15にしたことを挙げていた。
結果的に特に外食などの価格は上昇したが、サービスが全体の向上したことにより体験価値全体の向上が図られ好循環を形成しているのである。賃金が上昇すればやみくもに安い商品を求めて渡り歩く消費者も必然的に少なくなるであろう。
2)ダイナミックプライシングの導入:
日本は“一物一価”の考え方が強く、価格というものが消費者の頭の中に固定しているケースが多いと思われる。価格すなわちマーケティングの一つのPが変化せずに変わらないというのは他の3つのPを無視しているといってもいいのではないだろうか?
そしてマーケティングオートメーションやオムニチャネルがもたらす、企業にとっての本当の価値は“ダイナミックプライシング”にあるといえるだろう。
例えば、米国の航空会社やホテルのサイトにアクセスすると価格がリアルタイムで変わってゆくのがわかる。同じ路線でも需要期とそうでない時には大きな価格の違いがあり、また、予約状況などによっても価格が日々変化するのだ。これはそもそも“定価”の考え方が無く“マーケットプライス”の考えを取っているからである。
日本であれば需要期も価格が変わらないケースがほとんどなのですぐ売り切れるが、需要予測や予約状況、競合の価格に合わせて変化する、これは慣習的には不条理に思えるかもしれないが、実はそうでない。
顧客がどこで買うか(オンライン、店舗、電話など:Place)、その時の商品の状況(人気か、在庫はあるか:Product)、その商品の特性や顧客のステータス・重要度(変更可能、CRM:Promotion)などの要素を生かして最適な価格決定をしているのでまさにマーケティングのパワーを生かしているといえよう。
日本企業がマーケティングツールをなかなか導入できないのは価格弾力性が無く、在庫に対して得られる利益の限界がそもそも存在し、需要の増加というチャンスを利益に転じられないからではなかろうか。逆にいうと、そのような利益確保ができる企業は実は積極的に投資を始めているのである。
3)新しい顧客との関係性を構築:Marketing 4.0
そして、顧客とのコミュニケーション接点である。自社の製品やサービス、それに関連するキャンペーンや利用者の情報を開放することで企業は信頼を獲得し、ブランド力が向上し、ロイヤルカスタマーが増加してゆく。
先日Stylusという英国のマーケティング調査・コンサルティング会社のAntonia Ward氏が来日しad tech Tokyoのセッションと独自イベント“Get Real”を実施し、筆者もその中で対談したのであるが、「これからの顧客は、企業と対話することを期待しており、自分が製品開発あるいは改善に加わることが当然と考えている」と述べた。
すなわち、マスメディアを通じて一方的に伝えるだけでなく、オウンドメディアやソーシャルメディアを通じて対話あるいは個人にカスタマイズしたコミュニケーションを実施することにより。その製品やサービスを“自分事化”して“自己実現”を実施することができるのである。
まだまだ発展の途中であり、業界によっても千差万別ではあろうが、世界的には“高付加価値”のサービスをマネタイズする競争が始まっていることは間違いない。すでにモノがあふれており、少子高齢化、インバウンドによる経済・収益構造の変化に直面している日本が、競争力を維持して将来の成長原資を確保し発展するためにもどこかで“無料”“低価格”路線から抜け出さないといけないと感じている。