「意識高い系」採用担当者は要らない

新卒学生の採用期間の短縮と繰り下げによって優秀な人材の青田買いが加速し、企業と学生のコミュニケーションのあり方が変化している。こうした変化に対応している企業は、これまでの人事の視点に加えて、伝えたい情報を適切に学生に伝え、関係を構築していく広報とマーケティングの視点から採用戦略を見直している。そこで宣伝会議では、採用におけるコミュニケーション戦略の設計とその実践ノウハウを学ぶ「採用広報講座」を開講する。その講師でありキャリア、若者論などに詳しい常見陽平氏に採用活動のポイントを聞いた。
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画像提供:shutterstock

皆さんは「意識高い系」という言葉をご存知だろうか?やたらと前のめりな行動をし、意識高い発言を繰り返し、人脈作りなどにも熱心なのだが、いまいち能力や実績がともなわず、あるいはそもそも言うだけで物事にちゃんと取り組まず、空回りしている痛い奴のことである。周りに、そんな人はいないだろうか?

私自身、以前はそういうタイプだった時代があり、その後、そういう人たちと会って本当にウザいなあと思い、警鐘を鳴らすために『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)という本を2012年暮れに発表した。

重版はかからなかったが、おかげ様で話題作となり、私の本の中でもレビュー数が多い本となった。学術論文にも引用されたこともある。今年はNHK BSプレミアムで『その男、意識高い系。』というドラマが放送されたり、雑誌でも特集が組まれたりするなどして話題となった。

もともと、私がこの本を書いた時に、就活関連で取り上げたネタの一つは「意識の高い学生」という人たちである。やたらとカッコつける、自分磨きに取り組む、就活に関するイベントに積極的に参加したり主催したりする、そこで長いほとんど自己アピールに近い質問をしたりする、ソーシャルメディア上で意識の高い発言をする、社会人と会いまくる、学生団体の立ち上げなどの行為を行う学生たちのことだ。2013年に最年少で直木賞を受賞した朝井リョウ『何者』(新潮社)でも、意識の高い学生が登場していることが話題となった。

しかし、いまや問題は「意識の高い系 採用担当者」なのではないかと思っている。学生に人気者であるオレ、熱いオレに酔っていて、やたらと勉強会に参加したり、採用担当者同士で交流したり、学生団体関係者と飲み会をしたり、最新のメソッドを試したりするのだが、結局、学生に見透かされてしまっていて、人材を獲得できない採用担当者のことだ。

「飛べない豚は、ただの豚だ」は宮崎アニメ『紅の豚』の名セリフだが(ラピュタやナウシカもいいが、これは痛快で楽しめる作品なので見た方がいいと思う)、採れない採用担当者は、タダのコストである。採用担当者は、会社の未来を担う人材を獲得することが大事な仕事である。まずそれができないなら意味がない。

学生に人気者になることも、熱く語ることも、オシャレな服を着ることも結構だ。新しいメソッドを試すのも勉強熱心でよろしい。しかし、採れなくては意味がないのだ。それらの取り組みも、採用につながらなくては意味がないのである。

採用というのは、個人、会社、社会の未来を創る素晴らしい仕事である。経営陣や現場のデキる社員などと交流の機会もある。求人広告や採用イベントなどの企画も楽しいものだ。ただ、会社のお金で、ブランドで活動していること、何より営業をはじめ現場の皆さんに食べさせて頂いているという謙虚さも必要である。こういう、自分だけ目立って採れない人事は、会社からも社会からも浮いていく。天空の城ラピュタのように。

というわけで、意識高くなるのも結構だが、採用担当者はまず採れたのか。これにこだわるべきである。そうでなければ、皆さんを食べさせている日々数字を追いかけている営業担当者に失礼なのだ。意識高い系採用担当者よ、目を覚ませ。


常見 陽平 氏
評論家・コラムニスト

一橋大学商学部卒業。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。2014年3月に一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。著書に『なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?』(日刊工業新聞社)、『「 就社 」志向の研究』(KADOKAWA)、『「できる人」という幻想』(NHK出版)。


常見氏が講師を務める、
採用におけるコミュニケーション戦略の設計とその実践ノウハウを学ぶ
採用広報講座
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