登壇者
- 吉野家 企画本部宣伝企画部長 田中安人 氏
マーケティングの答えは「現場」にある
私は「吉野家」グループのCMOとして、商品や業態の開発・宣伝などに携わっています。経営とマーケティングの融合を目指しつつ、社外へのアカウンタビリティー(説明責任)を担うのが私の役割ですが、日々の仕事を通じて「マーケティングの答えは現場にしかない」という結論にたどり着きました。
私がグループ会社の「はなまるうどん」でマーケティングを担当していた時、当時の社長から「予算はないけれど売上を上げて欲しい」と指示を受けました。「先立つものがないのにどうやって…」と途方に暮れましたが、「できない」と言わないと決めました。そこで思いついたのが、当時世間で話題を集めていた「ダイオウイカ」を使ったエイプリルフール施策。ダイオウイカを丸ごと天ぷらにした、価格8万7000円の「まるごとダイオウイカ天」が登場するというネタを特設サイトで流したところ、インターネット上で話題になり、売上を170%伸ばすことができました。
翌年もエイプリルフールを目前に、社長から同じ指示がありました。「さて、どうしようか…」と悩む中で考えついたのが、当時火山が噴火して誕生した西之島新島産のできたて「マグマ」を利用した新商品「マグマあんかけうどん」を発売するという企画です。実は1年目の「ダイオウイカ天」企画は役員に黙って発表したものだったのですが、2年目はそうはいきません。役員会議では「食べ物で遊ぶとは不謹慎」と却下され続け、諦めかけた時もあったのですが、粘り強く説得を続けたところ4回目でやっと企画が通り、結果としては前年比130%の売上を出すことができました。予算がない中で「どうしたらメディアで取り上げていただけるか」だけを考え、試行錯誤した結果だと捉えています。
企画というのは、「異端」ともいえるくらいのアイデアからしか生まれないのではないか、というのが私の持論です。私の場合、出した企画に対して社内外問わず「馬鹿じゃないの?」と言われることも多い(笑)。ですが、これは何千回もそのように言われてきた私の経験則から言いますと、そうした企画こそ、21世紀で成功すると考えています。
また、企画を考える際に大切にしているのが、企画が実現した世の中をモノクロでなくカラーに見えるほどの鮮明さで描いてみるということです。「描ける」ということは、今までの研究やリサーチ、実績をはじめ、今後の理想や予測も全部入っているということですし、「カラーに見える」のは、周りに説明できる状態だということです。「妻はどのような反応を示すだろうか?」「子どもは?」など、ご自身の周りに落とし込んで考えてみると良いかもしれません。そのくらい具体的に「説明できる」時点で、社内外に賛同者が増えているはず。すると、いよいよ企画が周りを巻き込み始め、そして世の中が動き出します。