米ロックバンドOK Goの『I Won’t Let You Down』やエレクトロニック・ミュージックデュオYoung Juvenile Youthの『Animation』、安室奈美恵の『Anything』……。
デジタルテクノロジーの進化も背景に、いま音楽業界では、趣向を凝らしたミュージックビデオ(MV)を制作し、楽曲やアーティストが持つ独自の世界観をリスナーに体験させようとする動きが活発だ。
『I Won’t Let You Down』のように、当時注目され始めたばかりだったドローンを活用して撮影したもの、『Anything』のようにGoogle Chromeの拡張機能を活用したユニークな映像体験を提供するもの、何らかのインタラクションを伴うものなど、さまざまな“新しさ”を持ったMVが次々と登場している。
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そうした“技巧派”MVの最新事例とも言えるムービーが、11月25日にローンチされた。エレクトロミュージックシーンで注目されるアーティストKAMRAの楽曲『Deja vu』のインタラクティブMVだ。
特設サイトにアクセスし、Webカメラで自分の顔を撮影するか、顔写真をアップロードすると、ユーザー毎に映像が生成される。映像内では、認識された顔が切り離され、曲のシーケンスに合わせて多様な形に変化していく。最も見慣れているはずの自分の顔が人工的に変化していく体験を通じて、ユーザーは少し変容した自分自身を、楽曲名のとおり「Deja vu」する。ブラウザ上に映し出される自分の顔は、音楽によって表情・感情が加えられており、ユーザーはアルバムのコンセプトである「Artificial Emotions(人工的な感情)」の体現者となる、というわけだ。
特設サイトのオープンから約2週間で、話題は国内のみならず海外にも広がっている。engadget ドイツ版やスイスの新聞『Le Matin』のオンライン版などのメディアで取り上げられたほか、グーグルのデモンストレーションサイト「Chrome Experiments」や、FWA(FAVOURITE WEBSITE AWARDS)の「SITE OF THE DAY」にも選ばれた。
こうしたMVが業界を賑わせている背景について、今回のインタラクティブMVの企画制作を手がけた、dot by dot inc. の富永勇亮氏は次のように話す。
「すべての事例について同じことが言えるかは分かりませんが、一つは“non-verbal”なつくり込みをすることで、海外からの視聴を増やしたいというのがあると思います。代表的な成功例は、PARTY 川村真司さんが手がけた『Golden Touch』(安室奈美恵)。海外での視聴数が圧倒的に多く、あれだけのビッグヒットに至ったと思います」。
今回のインタラクティブMVの狙いについて尋ねると、やはり海外での話題化を意識していたとのこと。「KAMRAは無名のアーティストなので、(前出の『Golden Touch』よりも)よりニッチに、体験の深さで勝負したいと考えました。エレクトロニカなんて、好きではない人にとっては、眠いだけの音楽ですし(笑)。メジャーシーンへの拡散というよりは、海外のアート・テック系のメディアを見ている層に届けたいという思いが強くありました。スマートフォンで手軽に映像を見られるようになっている時代背景からすると、僕らのトライしたMVは決して、時代の流れを捉えたものではありません。視聴にはかなりのスペックを必要としますし、スマートフォンでは見られない。『拡散する』という目的に対し、ハードルの高いスペックとハイブローな演出は万人受けする仕様ではありません。たぶん、メジャーアーティストの仕事なら、この手法は用いなかったと思います」と富永氏。
今後のMV市場の動向については、「“シェア崇拝”の時代が長らく続いていますが、記事毎のTwitterのシェア数表示が廃止されるなど、今後は拡散の指標も変わっていきます。『行列ができているから自分も並ぶ』という感覚で、ビュー数によって作品を評価するのではなく、“表現と技術の到達域”で善し悪しを判断される時代に向けて、みんな表現と手法を模索していくと思います」と指摘。
さらに、今後MVをつくっていく上で意識すべきことについては、「テクノロジーに走りすぎないことが大切だと思います。『どんなface tracking(顔追跡機能)を使っているのか?』『javascriptで、3Dをどこまで表現できるのか』といったことに注目するのは業界内だけ。大切なのは、一般ユーザーにとって『一体何でできているのか分からないけれど、心がザワザワする』ものであるかどうか、だと思います。dot by dot inc.のディレクターとプログラマーは、最高の表現をするために、手法の限界点を模索する作業を常に行っています。手法を選定して、表現を模索すると駄作になると思います」と、テクノロジーは表現を極めるための手段のひとつにすぎないことを強調した。
スタッフリスト
- 企画制作
- インビジブル・デザインズ・ラボ+dot by dot inc.+INS Studio
- PR
- 松尾謙二郎、富永勇亮、関 賢一
- CD
- 谷口恭介
- TD+PRG
- Saqoosha
- 演出
- 橋本 麦
- D
- 伊藤太一
- PRG
- 衣袋宏輝
- SE
- イズカワタカノブ
- Assistant
- 佐藤志都穂
- Cinematography
- 松村 匠
- Electrician
- 染谷昭浩
- 出演
- FEMM
- PR(ピーアール)
- 古屋言子