90万部突破の『人生はニャンとかなる!』は書店員の“ささやき”から生まれた?(ゲスト:水野敬也さん)【前編】

大人気シリーズに隠された「大ヒットの理由とコンセプト」

水野:外側から見ると企画が立っている、うまくやっているみたいなところがあるんですけど、コンセプトや軸が泥臭いんです。そういうものがないと絶対にヒットには結びつきません。『人生はニャンとかなる!』は猫の写真と名言の一言ですが、全ページが切り取れるようになっています。それには理由があって、僕は部屋に名言を貼りたくなるタイプなんです。

一同:

水野:ちょっとイタい奴で、部屋が名言だらけになっていくんですよ。でも、部屋で取材を受けるときに恥ずかしいから、毎回剥がして、人が帰ったらまた貼っていて。そのときに思ったんですよ。なぜ、貼っている名言を隠さなければいけないんだと。大好きな言葉だし、愛しているし、恋人みたいな言葉なのに、人が来るたびに隠すのは失礼だと。

権八:はい、はい。

水野:こういう課題を解決する。これが『人生はニャンとかなる!』のコンセプトです。じゃあ、名言を部屋に貼ってもいいようにするにはどうしたらいいか、というところで延々、演出を考えていくわけです。だから、最初は犬でも、写真でもなくて、それを何百通りと考えて。最終的に、犬がいたら、人の家に行ったときに「わー、犬じゃん」と絶対になるじゃないですか。ただ、ポイントは裏側にガッツリ自己啓発が書いてあるんですよ。

中村:自己啓発は裏側に。

水野:それは隠すということ。隠さなければいけないから、見開きにはできないんです。だから、切り取りにした。結果、それが積み重なって、あの形になっていくんですけど、外側だけ見ると「水野、お前、うまいことやりやがって。印税いくらもらってんだ?」みたいな話になる。でも、もっと地に足ついたところからはじめている感じはあります。

権八:それで言うと、今回慌ててブログを2、3日分読んだ時に(笑)、あるタイトルを見て懐かしさというか、既視感を覚えたんです。タイトルに「天才の倒し方」って書いてあって。

中村:あのブログ、面白かったですね。

権八:俺はとっくに水野くんはそういう本を出していると思っていたわけ。前にそんなことを言ってたから。でもブログを読んでみたら、実は出してない、書いてないと。でも、『人生はニャンとかなる!』の話も、「天才の倒し方」も根幹にある根っこは一緒じゃないですか。

水野:そうです。さすがですね。「天才の倒し方」、僕は本当にこういう本を出そうとしていて、商標登録までしていました。いつか出すだろうと。でも、出せないんです。そのまま出したら、そんなものは誰も食べたくないんですよ。でも、伝えたいんですよね。

中村:どういうことでしょうか?

水野:たとえば、ラム肉は匂いがキツいですよね。でも、これを伝えたいという思いが根っこにあるとする。ラム肉を生で出しても誰も食べてくれないけど、かといってラムを鶏や牛には変えられない。だから、ラムをしゃぶしゃぶにしたり、味付けするということを延々とやっているのが僕の作品群なんですよね。

中村:根本に「天才の倒し方」みたいな通底するテーマがあるけど、それを料理して、手を替え、品を替え、出しているみたいな。

水野:そうです。ただ、そこでお客さんがどれだけ「鶏が食べたい」と言っても、うちでは鶏は出せない。

権八:ごめん、肉のたとえがわかりにくいいんだけど(笑)。

一同:

水野:すみません、本当にたとえが苦手なんですよ。

次ページ 「本は発売前に徹底検証できる唯一かつ最強のジャンル」へ続く

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