講演者
- 株式会社あきんどスシロー 取締役執行役員 マーケティング本部長 森井 理博 氏
スシローは大阪市阿倍野区の「鯛すし」を原点とする回転寿司チェーンです。全国に411店舗、韓国に6店舗、今年1月には「ツマミグイ」という新しい業態をオープンしました。
マーケティングにおける課題の1つに、認知度や購入意向といったユーザーの行動に関するデータと、実際に商品が購入された購買データをいかに統合するかということがあります。つまり、最終的に売り上げに貢献したのは、どういった行動をとったユーザーなのかを明らかにするということです。我々は、この課題に「バックキャスト・マーケティング」という考え方で取り組んでいます。
それをご紹介するために、これまで我々がどのようにデータを活用してきたのかをお伝えします。スシローの年間の来店客総数は約1億3000万人、年間販売皿数は約12億皿、1店舗あたりの月の平均売上は約3000万円と、一般的なファミリーレストランのおよそ3倍の売上です。これだけ多くのお客様がご来店しておりますので、それに付随するビッグデータが蓄積されていきます。
まず、2002年に「回転寿司総合管理システム」を導入しました。これにより、寿司皿の裏にICチップを取り付けて、客層や曜日、時間帯によって流す寿司ネタを変えたりできるようになりました。このシステムによって店内の購買系データベースが最適化されるようになったのです。ただ、最初にお話したとおり、そのデータとお客様がどのような情報を得て、来店してきたのかという行動のデータベースをつなげることが課題となっていました。
その解決には、今年2月に導入したスマホアプリ「スシパス」が役立ちました。このアプリは、もともとはお客様からの「待ち時間が長い」という不満を解消するために導入されたものです。座席予約と順番待ちの発券ができ、スムーズに席に付くことができます。この「スシパス」によって、オウンドメディアやTwitter、Facebook、メルマガなどの行動データベースを、先ほどの「回転寿司総合管理システム」から得られた購買系のデータベースと連携できるようになりました。
これまでのマーケティングは、認知から購買までの確率を高めていく方法論と言えます。この考え方の場合、仮に100人に商品を認知されたとしてもファネルを進むうちに徐々に淘汰され、最終的には3人しか購入に至らず、残りの97人は無駄だったということもありました。私たちが取り組む、バックキャスト・マーケティングはそれを逆手に取りましょうという方法論です。購買した事実が分かっていれば、クッキーやタグを追い、その人がどのような接点をたどったのか分析し、似た属性の顧客にも最適なコミュニケーションを配置すれば良いのです。
しかし、「言うは易く行うは難し」で、実際には様々な課題があります。オウンドメディア以外のユーザーをどう追いかけていくのか、また、スマホとPCの垣根をどのように埋めるかも課題です。さらに、一番の問題は、ユーザーの過去の行動を未来に適用して良いのかということです。単純に言えば、冬のデータが次の春に活用できるのかといったことになります。こうした課題にも、新しいテクノロジーなどをチェックしながら取り組んでいきます。
具体的に、我々がバックキャスト・マーケティングで何をしているのかについてです。これまでのマーケティングでは、デモグラフィックな属性でターゲットごとに分割して施策を行っていました。今回、購買データベースと行動データベースが連携することで、来店頻度と購買価格ごとにクラスター分類し、それぞれに異なる施策が実施できるようになりました。我々としては来店していただければ売り上げになるため、その方の性別や年齢はあまり考慮せずに、行動によって分類できるのです。
さらに、顧客のエンゲージメントを向上させ、ロイヤル顧客化していくために、CRMとも連携しています。クラスターごとにポイントやマイレージ、スタンプなどのインセンティブ施策を進めています。
マーケティングは、この30〜40年進化していないと言われています。私は、このバックキャスト・マーケティングの活用によって、マーケティングが新しいフェーズを迎えるのではないかと確信しております。
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