—他に、これまで訪れた場所で印象に残っている場所はありますか。
僕の店づくりの原点になっているのが、10数年前に訪れたロサンゼルスのデザインホテルです。実はその時、ニューヨークに行くつもりでしたが、偶然目にした雑誌のデザインホテル特集で、ロサンゼルスのウエストハリウッドにある「ザ スタンダード」というホテルの写真に目が釘付けになりました。ロビーの受付の後ろに大きな水槽があり、その中にネグリジェを着た女性が横になっているのです。もちろんこれは演出ですが、写真を見て実際に見てみたくなり、急きょニューヨークからロサンゼルスへ行き先を変えてしまったのです。ホテルでもカフェでも、それがユニークなものであれば、訪れる国や街を変えてしまうほどのパワーがある。そのような影響力のある店づくりをしたいと思いましたね。
—行列の並ぶ人気店を数多くプロデュースされている今、その思いは達成されたのではないですか。
はい。例えばオールデイカジュアルダイニングの「bills」は、アジアからのお客さまも多いのですが、彼らは東京に来たらまずbillsに来てくださいます。数ある人気店や観光名所の中、しかも限られた時間の中で並んでくださるのはありがたいことだと思います。たまたま通りすがりで入るのではなく、“ディスティネーション型”の店づくりは僕がやりたかったことの一つなので、うれしいですね。
—行列のできる人気店をプロデュースするうえで、意識していることはありますか。
僕らが得意とするのは、僕らがやったことが一瞬にしてメディアに取り上げられたり、口コミで広がったりするような、話題を生み出すプロデュースです。ポイントはいくつかありますが、大事にしているのは店のコンセプトです。難しい言葉は使わずに、簡潔でオリジナリティのあるキャッチフレーズで表現します。
例えばbillsなら「世界一の朝食」、ICE MONSTERなら「世界のベストスイーツTOP10に選ばれた世界一のかき氷」といった具合です。
コンセプトができたら、その店を構成するコンテンツを書き出していきます。例えばインテリア、グラフィック、メニュー、BGM、制服……。普通はそれくらいしか思いつかないかもしれませんが、これらはメディアで取り上げられる際の切り口になるものなので、多ければ多いほどいい。アイデアに詰まったら、僕はいつも雑誌の誌面を参考にします。「イケメンカフェ特集」とか「夜景の見えるカフェ特集」とかいろいろあるので、「スタッフ」や「借景」という切り口も考えられますよね。
最後に、書き出したコンテンツに人や事柄をキャスティングします。
メディアにこんな言葉で取り上げられたい、という具体的な人や事柄を当てはめていくのです。例えばスタッフには「キャラ立ちスタッフ」、インテリアには有名インテリアデザイナーを起用するとか。フックが多ければ多いほど、いろいろな切り口でメディアに取り上げられ、話題になる可能性が高まるというわけです。
僕が今、注目する強力なコンテンツは、「日本初上陸」です。日本人に人気のある場所からの初上陸、例えばニューヨークやハワイ、最近なら台湾です。その土地で行列を生む店を、東京の表参道に初出店する。まとめると、「日本初上陸」「ニューヨーク、ハワイ、台湾」「行列」「スイーツ」「表参道」。これらのコンテンツとキャスティングがそろえば、日本でものすごく話題になると考えています。