電力小売り自由化目前—東京ガスが語る「ブランド」を育む広告の重要性

「宣伝会議サミット2015」が11月19日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて開催され、マーケティング担当者の課題解決に役立つ最新事例や手法を紹介する講演が行われた。本コラムでは、注目企業のキーパーソンによって行われた講演の一部をレポートする。

登壇者

  • 東京ガス 広報部 広告担当部長 桑名 朝子 氏

東京ガスでは、ガスの価値を食・料理を通じて伝える「家族の絆」シリーズ、当社の安全への取り組みを伝える「安全TODAY」シリーズ、そしてガスに限らずエネルギー全般を担っていくという当社の意思を表した「がんばるひとに、いいエネルギーを」シリーズという3つの軸で企業広告を展開しています。

商品広告とは異なり、自社提供番組内でのみ放映している企業広告。今日はなかでも、見た方から「思わず泣いてしまう」との声を多数いただく「家族の絆」シリーズについて、お話ししたいと思います。

「家族の絆」シリーズは、2008年、当社の一社提供番組『食彩の王国』(テレビ朝日)内で放映するCMとしてスタートしました。『食彩の王国』は、毎週ひとつの食材を取り上げ、生産者や料理人の思いを深掘りし、視聴者の感性に訴えるつくりになっています。そのため、番組枠内で流すCMも、商品を前面に押し出すものではなく、企業の思いを伝えるようなCMにすることで、番組とCMが一体のコンテンツとなって相乗効果を発揮できるのではないかと考えました。

オリエンはA4用紙1枚だけ

東京ガス 広報部 広告担当部長 桑名 朝子 氏

「家族の絆」シリーズのオリエンは、大変シンプルです。料理は家族の絆であってほしい。そして、東京ガスはそのお手伝いをしたい――その思いを込めたコアメッセージ「家族をつなぐ料理のそばに。」を、CMを通じて伝えたい。これだけです。単にガスを供給して収益を上げればいいという考えではなく、ガスをお届けする先のお客さまに少しでも幸せになってほしい。事業活動の根底にある、そのささやかな思いを伝えることで、CMを見た方が少しでも東京ガスを好きになってくれればと考えています。

このコアメッセージのほかにも、制作の際にクリエイターの方にお願いしていることが何点かありますので、ご紹介します。

まずは「共感」「感動」に支えられたメッセージであるということです。CMを見た方が、自身の家族にその思いを重ね、温かく幸せな気持ちになってほしい。また、そうした気持ちを通じて、東京ガスの企業イメージが形成されると良いと考えています。

二つ目は、一度の接触でも心に残るCMになるように、ということです。『食彩の王国』内のみで放映するCMですから、放送は週に一度、年間で言えば50回ほど。そんな接触回数の少なさを補うのが、SNSをはじめとした口コミによる拡散です。CMを見て共感・感動してくださった方がSNS上でシェアすることによって、少ない放映回数というハンディを乗り越えられると考えています。

三つ目は、時代性をうまく反映させることです。単なる“美談”では、感動や共感にはつながりづらいと考えるためです。

また、ガスのCMなので、青い炎を必ずどこかに入れること、そして1年を通じて放映するので季節感に偏りがないこと・見続けても飽きないことなども重要だと考えています。

こうしたポイントをA4用紙1枚に書いて、クリエイターの方にお渡ししています。一口に「家族」と言っても、「父と娘」なのか、「おばあちゃんと孫」なのか、設定はさまざまあり得ますが、そうした細かい条件は当社側から提示せず、クリエイターの方にゆだねていますので、比較的自由度の高い環境の中で、自由に発想していただけているのではないかと思います。

次ページ 「電力小売り自由化で、広告の役割はどう変わる?」へ続く

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宣伝会議サミット2015
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