マーケティングオートメーションはNPOマーケティングの切り札となるか?

NPOにおけるマーケティングオートメーションの価値

このような特徴をもったMAですが、NPOをはじめとするソーシャルセクターにとっての価値とは何でしょうか? 1つ目は、受益者や支援者の拡大など収入の増加につながる点です。NPOでは団体HPを活用して提供している製品やサービスの販売、寄付者や会員、ボランティア等の獲得、イベントへの申し込みなどを行っていますが、そのコンバージョン率を高めることができます。昨今では、SalesforceやMicrosoftなどの顧客管理ツールを導入しているNPOも増え、それらと連携しながらMAを実践していくことが容易になってきています。また、Webの世界にとどまらず、団体紹介パンフレットの送付やテレマーケティングによる支援者の獲得など、自動化された一連のマーケティング実行プロセスの中にリアルの世界のアプローチを組み込むことも可能です。

2つ目が、業務の効率化です。慢性的な経営リソースの不足に悩まされているNPOでは、ルーチン業務を自動化することで業務プロセス全体の効率化を図ることができ、ボランティア・スタッフの活用の幅も拡がるため、人件費を抑えることができます。さらには人的エラーやミスの削減にもつながります。このように、“攻め”のツールとしても、“守り”のツールとしてもMAはNPOの日々の業務の効果・効率の改善に寄与する部分が多いといえるでしょう。

NPOのマーケティングオートメーション導入事例

企業セクターではMAの導入が徐々に拡がりつつあるところですが、NPOセクターでも導入事例が出始めています。下記の2団体では、MAベンダーの1つ、マルケトのソリューションを導入して支援者の獲得強化を図っています。マルケトでは2014年の日本法人設立と同時に、日本独自の社会貢献プログラム「Marketo Social Impact」を開始し、NPO向け価格でのソリューション提供・社員プロボノや提携外部団体による導入コンサルティングを行っています。

エイズ孤児支援NGO・PLAS

アフリカのエイズ孤児を支援する特定非営利活動法人エイズ孤児支援NGO・PLASでは、継続的な寄付会員である「マンスリーサポーター」の獲得を行っています。他のNPOに先駆け、いち早く導入を決めたPLASでは、メールマガジン登録、イベント誘導、マンスリーサポーター獲得という流れを自動化しながら、各ステージでのコンバージョン率を高める工夫を行っています。例えば、メルマガを登録したばかりの人に対しては、アフリカでのエイズ孤児支援という本業をいきなり伝えるのではなく、同団体が開催している著名人を招いたイベントの案内を行いながら、ゆるやかに潜在的な支援者との距離を縮めるようにしています。一方、一度イベントに来てくれた人に対しては、イベントでは伝えきれなかったコアな情報を提供するなど、相手の興味関心のレベルに応じたコミュニケーションを行っています。また、マルケトを使用することにより、メールやWebの閲覧など、個々人の行動や興味関心のレベルが把握できるため、それらの情報をリアルなイベントで直接接する際のアプローチ戦略にも活用しています。

かものはしプロジェクト

認定NPO法人かものはしプロジェクトでは、「子どもが売られない世界をつくる」を掲げ、カンボジアとインドの2カ国で事業を行っており、その活動を進めるために会員を増やすことに取り組んでいます。同団体では、事業の拡大を図るため、潜在会員へのリーチと発掘、イベント集客におけるルーチン業務の効率化、退会者のリテンションなどの課題解決がマルケト導入の契機となりました。マルケトの活用にあたり、会員申し込みを行うまでの流れを5つのステージに分解しました。従来は、メール購読希望者に対して同内容を一斉に配信していましたが、上位ステージへのコンバージョンを高めるためにステージごとに異なるメールを配信しました。結果として、4倍もの開封率につながるといった効果を導いています。

次ページ 「マーケティングオートメーション導入の留意点」へ続く

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マーケティング コミュニケーション実践論
マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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