「自分の感覚は全く信用していません」と話すベストセラー作家。その真意は?(ゲスト:水野敬也さん)【後編】

ベストセラーを連発しても自分を全く信用していない

中村:水野さんは本の見せ方も気にしていそうだと思ったんですが、帯やプロモーションにはどんなふうに気を遣ってますか?

水野:プロモーションまでは意外と考えられないんですよね。取り上げてくれる、くれないまでは決めることができないので。ただ、僕はタイトルやパッケージ、装丁はめちゃくちゃ頑張りますね。たとえば、装丁は今、ほぼ寄藤文平さんとやっていますが、つくり方はたぶん他の人とは違う方法をとっています。事務所に5時間ぐらい一緒にいて、その場でガンガンつくって、いろいろな人に見てもらったり。たくさんのやり方を試していますね。

澤本:やっぱり、いろいろな人に見てもらうんですね。

水野:見てもらいますね。文平さんの事務所に行ったときも、横に座っていた全く関係ない人に「ちょっとだけ見てもらっていいですか」と言って。パッと見たときにどんな空気かってあるじゃないですか。メールで送ってもらうと、面白いと言っても面白がってないこともあるので、とにかくいろいろな人に見てもらうというのはやりますね。

澤本:人の意見を聞くときは、つくった人も横にいるわけだよね。その状態で聞くと、たぶんつくった人もその意見を聞くんだよね。それがいいと思ったの。僕がこう変えてくれと言うと、僕の意見にしか聞こえないけど、他の人の意見だと、みんなそう思うんだろうなってなるわけだから。

水野:そうですね。

澤本:僕も本を書いたことがあるけど、表紙でも内容でも、いろいろな人の意見を聞いて直していくというのはいいと思った。

水野:特に僕が苦しんでいるのはタイトルです。僕にはコピーの才能が欠落していて、僕の本でタイトルを決めているのはほとんど自分じゃありません。僕が一番量では案を出していますけどね。

一同:

水野:絶対いいものを見つけるぞ・・・!と、熱の薪をくべていくんですけど、全く関係ない人がポーンと出したものが飛び越えていくんですよね。なぜ僕が欠落していると思うかというと、僕にはジャンプするバネがないからです。ギューッと中身に入り込んで、やり続けるのはできるんですけど。僕からすると、タイトルは全く知らない人との間にポンと橋がかかるイメージなんですが、僕は橋をかけられないんです。だから、他の人やコピーライターと相談しますね。

中村:水野さんの持ち味なのかもしれませんね。そのバネというか、飛躍しない感じが。

水野:そうですね。欠落しているポイントがたくさんあります。装丁も僕がいいと思ったものって、たいてい結果がよくないんですよ。だから、僕がいいと感じた時は、「あれ、僕がいいということはちょっと危ないな」と思って、また人に聞きます。

中村:これだけベストセラーを出していても自分を信用してない?

水野:全然信用していません。デザイン、コピーに関してはその筋肉がないので無理ですね。でも、筋肉がないことを自覚しておけば、何とかなります。全力で「お願いしまーす!!!」という感じで、頭を下げるための風圧が上がるので。才能がないとわかっていれば、そのぶん土下座もできちゃうという。そうやって埋めていく感じですね。

権八:僕らもCMは人に頼まれてつくるものだから、基本的に「どう思いますか?」の連続じゃないですか。でも、クライアントに持って行く前に、会社のデスクやまわりのスタッフ、家族に「どう思う?」と見せると、みんな好き勝手に色々言うじゃない。それに対して水野くんは超謙虚じゃないですか。自分がダメだから「お願いします」と土下座して。でも、たまには「この意見は聞きたくないなぁ」て思うこととかもあるの?

水野:悪意のある意見が来るときはあります。でも、わかってないとはならないですね。一回、それを受け入れて直す。文章のいいところは、直しても元に戻せるんですよ。

澤本権八:なるほど。

水野:下書きはあるので。これ以上直したらダメだというところまでいく作品はいいですね。もっとこうしたらよくなる、と思ったのに前のほうが良かった、というのがゴールラインというか。だから、そこを超えていないと自分としては不安ですね。

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