「自分の感覚は全く信用していません」と話すベストセラー作家。その真意は?(ゲスト:水野敬也さん)【後編】

尊敬するクリエイター“ジョンラセ”との邂逅、しかし・・・

中村:ブログで最近尊敬するクリエイターがいると書いていましたね。ピクサーのジョン・ラセター監督だと。その話をぜひ聞きたくて。

水野:ジョン・ラセターはまさに僕が今言ったようなことをやっているんです。ピクサーのDVDで特典映像を見ると、全く正直おこがましいですが、同じスタイルなんです。まず線でアニメを描いて声を入れますよね。つまり、ゴールに最も近い状態まで持っていって、それを50人ぐらいで見て、またそこからガンガン、ブレストをしてストーリーツリーを変えていくと。素晴らしいじゃないですか。

中村:素晴らしいですね。チームでそれができるんだと。

水野:特に感動したのは、確か『ベイマックス』の特典映像かドキュメンタリーで見たんですが、「主人公の感情がまだちゃんとできていない。変えるべきだ」と指摘した人が『アナ雪』の監督なんですよ。つまり、会議に『アナ雪』の監督などすごい奴らが集まってきて、言い合ってるんです。最高じゃないですか。でも、日本のものづくりは1人の天才がポーンとやって、その人が花火を打ち上げて、後期になるとちょっとわからなくなったねと言われてしまったり。チームで作れてないんですよね。ジョン・ラセターは圧倒的にすごいです。

中村:好きになりすぎて、ジョン・ラセターの取材に押しかけたんですよね?

水野:そうですね。新作『ボルト』の記者会見が新宿のパークハイアットであると知って、ここに行けば会えるんじゃないかと行ってみたら、入口で「何の取材の方ですか?」と媒体名を聞かれたんですよ。それで「媒体は『ウケる日記』です」と言ったらプレスパスをくれて。

一同:

水野:プレスとしてジョン・ラセターの記者会見に入りました。しばらくして、ジョン・ラセターが入ってきて、その後に『ボルト』を手掛けた20代の監督が後ろから来て。そしたら、ジョン・ラセターが片膝を床について、若い監督にこうしたんですよ。すごくないですか? 彼はいろいろな監督を育てて、毎年素晴らしい作品を供給していくという志があるから。

権八:この姿勢は何て言えばいいんだろ?両手をこう…。これ、ラジオだからさ。

水野:かしずくっていうか。片膝ついて監督に向かって両手をピラピラと。僕は質問したくて、ずっと手を挙げてやろうと思っていたんですけど、本当にみんな空気読めなくて、すぐジョン・ラセターに質問するんですよ。でも、ジョン・ラセターは監督を立てているわけじゃないですか、ピラピラで(笑)。僕はジョンラセのその心を継ぐ者として監督に質問するべきなんですけど、僕も監督には正直聞きたいことがなくて。

一同:

水野:ジョンラセ目当てだから、誰か早く監督に一回質問してくれと。3回目の質問で監督にいったんですよ。「よっしゃ、ここだ」と思って、『ウケる日記』の水野がバンバン右手をあげて、「はい! はい!」とやっているのに司会者が全然当ててくれなくて。あれは質問者が決まっているんですか?

中村:だいたい、ああいうものは決まってますね。

水野:やっぱり決まってるんだ・・・。僕がジョンラセに聞きたかったのは、ピクサーの場合、絶対的に魅力的な周辺人物を描いてるじゃないですか。「その周辺人物をどうしとんねん?」ということを聞きたかったんですけど、聞けなかったですね。

中村:何も聞けなかったんですね(笑)。水野さんのブログでピクサーの作品評をやっていて、それで僕も実際に映画を見たりしていますが、『ウォーリー』と何かだけは作品に一部、重大な欠陥があると。

水野:そう、『ウォーリー』と『カーズ2』と『カールおじさん』。この3つは脚本がどこか壊れているんですよ。

中村:『カールじいさん(の空飛ぶ家)』ですね。「カールおじさん」はお菓子のほうです(笑)。

水野:あ、『カールじいさん』。これは本当に僕もわからなくて、見ていると何か途切れた、共感が途切れたというか、最後まで感情移入できなかったところがこの3作品にはありました。ただ、興業的には成功しているんですよね。

権八:俺はその中だとカールおじさんしか見てないけど、ちなみにどこで途切れたの?

水野:異世界に行ったときですね。異世界にビューンと飛んで、わけわからない世界に行きましたよね。

澤本:行った、行った。

水野:あれは2個目のつくったウソというか。たぶんあの世界がおかしかった。ウソをつきすぎている気がして。僕も完全に分析できていないんですけど、あそこからおかしくなっています。それをジョンラセと語りたいですね。「ジョンラセ、あそこ違うんじゃないか」と。ジョンラセが「水野くん、甘いね」と。そんな会話してみたいです。人脈ないですか?

一同:ないない!笑

中村:『カールじいさん』は初めの10分で大爆涙ですけどね。それを僕は覚えていて。

水野:僕も素晴らしいと思いました。最初に泣きをもってくるって革命じゃないですか。裏切りですよね。そこはそこでいいんですけど、その後に何かがおかしくなったような気がします。それはわからないんですけど。

次ページ 「クリエイティブの源泉は中高時代の傷ついた体験にあった?」へ続く

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