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2015年「アドタイ」で最も読まれた記事は、電通 若手コピーライターの制作の舞台裏
1位 ポスターでエールを交換、話題の早慶戦ポスターはこうして生まれた
制作裏のストーリーが大反響を呼ぶ
「ビリギャルって言葉がお似合いよ、慶應さん」「ハンカチ以来パッとしないわね、早稲田さん」と、挑発しあうチアリーダー。「慶應に負けた優勝など、したくない」 「早稲田から勝ち取る優勝に、意味がある」と、野球部もにらみ合う。そして、応援部、吹奏楽部、さらには両校のキャラクターたちまで…。
5月に開催された東京六大学野球での“華の慶早(早慶)戦”。もしかすると実際の試合以上(少なくともネット上では試合以上)に盛り上がったのが、このポスター合戦だった。記事は、制作の舞台裏に迫ったもので、社会的にも話題になった五輪エンブレム関連の記事をおさえ、堂々の1位となった。
このポスターは、電通のコピーライターである近藤雄介氏の自主提案によってつくられたもの。近藤氏は慶應義塾大学応援指導部リーダー部のOBで、2013年には神宮球場で早慶戦・慶早戦の応援を仕切った。「誰かを応援する仕事に就きたい」という思いから、広告会社に入社。体育会の選手たちをいつか広告の力で応援したいという思いを抱いていたという。
先輩のコピーライターから「自分にしか書けないコピーを書こう」と学んだことがきっかけで、2015年の慶早戦の集客を考えるようになった。現役の応援指導部員たちとの企画会議、現役の学生たちへのヒアリングを重ねた結果気づいたのは、「現在の早慶の学生は、ライバル意識が弱いのではないか」ということ。近藤氏は「“慶早戦って、野球部だけの戦いでなくて、応援合戦、さらにはお互いのプライドをかけた戦いですよね”というメッセージを伝えたい。心のどこかに眠っている愛校心を、くすぐりたいと考えました」と記事の中で語っている。
SNSでつぶやかれたことをきっかけに、全国紙などでも記事になるほどの反響があり、ついにはテレビの情報番組で取り上げられるまでに発展した。ただ実はSNSで話題になった時点では、実際に貼られているポスターは1枚もなかったというエピソードも。「広告メッセージが相手に届きにくいと言われる昨今ですが、三田にある喫茶店の片隅で現役部員と考えてきたものが、こうして多くの人に伝わったのは、とてもうれしいことでした」(近藤さん)。
「伝える」と「伝わる」の違い、アウトプットの裏側にあるストーリーの訴求─昨今、広告界で語られることの多いアプローチについて改めて考えるうえでも、示唆に富む事例と言えそうだ。