「あぁ、通じない!」という経験を買って出る
長谷川:日々仕事をしていると、広告をつくることばかりに意識が行って視野が狭くなってしまうことがあるのですが、どうしたらそういう考え方から抜け出せるでしょうか?
糸井:きっと、周りに広告の賞を獲っている人がたくさんいるんでしょう。でも、賞のことよりも、近所のお店の女の子をナンパするためにどうしたらいいかを一生懸命考えていたほうがよっぽどコピーの勉強になると思いますよ。
もっと女の子に振られるなり、子どもの言葉に負けるなり、おばあさんに「何を言ってるかわからない」と言われるなり、そういう経験をして本気で切なくならないと。
狭い世界でやっていることが、通じない人がいるということ。広告やコピーなんて何の関係もない場所のほうが、圧倒的に面積が広い。そして人間はそこにいるんですよ。
長谷川:そういう経験をしないから、コピーライターという職業名はいつまでも広まらず、糸井さんの名前のほうが有名なのかもしれないですね。
糸井:コピーライターって、生活に縁がないんですよね。僕がやっていることのほうが、みんなの暮らしに縁があるんだと思います。「コピーライターとして」より「長谷川哲士として」どうするか考えたほうが面白いんじゃないかな。
長谷川:そうですね。僕もすぐには自分を変えられないと思うのですが、もうすぐ独立するので、この機会に自分がどうなりたいのか、ちゃんと考えてみたいと思います。
糸井:間違うのもいいけれど、広告の世界のなかでだけ競い合っていたら、間違い方もつまらなくなってしまうと思いますよ。
いちど、広告から離れる時期をつくったほうがいいかもしれません。そんなに簡単には抜け出せないと思いますよ。自分のつまらなさ、小ささに向き合えるかどうかです。僕も、しなかったように見えるかもしれないけれど、「あぁ、通じない!」という経験を、人より買って出ているんですよ。
まぁ、まだ31歳だし先がある。変えるなら、今だよね。本を読むとか旅をするとか、するといいんじゃないでしょうか。1年後に、また会いましょうかね。
長谷川:ぜひ、よろしくお願いします。今日は本当にどうもありがとうございました。