坂村健×佐々木康晴「IoTが創造するNEW WORLDと、変わる広告会社の役割」【前編】

「クローズドIoT」から「オープンIoT」へ

坂村:IoTの研究自体はかなり進んでいて、何をどうしたらいいかは分かってきています。あとはコストダウンや、それをどう出していくかです。インターネットはみんなが使うから面白い仮想世界ができている。IoT技術も、クローズなものならすでに企業内などで実用化されています。しかしクローズのままではいけません。「クローズドIoT」から「オープンIoT」にならないと社会を変えられません。日本もネットワーク化は進んでいますが、例えば系列の企業内をつなぐというような、クローズドなネットワークに留まってしまっている。いま世界では、全世界の部品メーカーをネットワーク化しようとする動きがあります。

坂村 健 氏

こういう動きは少しずつ他の業界にも影響を与えていて、例えばネット印刷サービスで、希望の納品日や料金の印刷を発注すれば、顔を合わせたこともない印刷会社から、打ち合わせすることなく印刷物が送られてくる。この方法だと、クオリティーはこれまでと同等か、ちょっと下がるかもしれない。でも、クオリティーは徐々に上がっていきます。一番大きな変化はコストで、世界に窓口を広げると、コストは下がります。

日本の半導体メーカーはこの波に乗り遅れました。非常に優秀ですが、設計も生産も自分の系列の中に閉じていたからです。世界は、技術開発・製造・販売を分けるモデルに変わってきています。それが「オープンIoT」というものです。

オープンIoTの取り組みが具体的に進んでいるのがオリンピックで、私は今おもてなしをICT技術でサポートする仕組み作りに取り組んでいます。2020年には今の10倍以上の人が日本を訪れます。訪れた人が一番困るのは複雑な都市交通でしょう。開発中の「おもてなしクラウド」は、交通系ICカードをインターネットにつなぐことで、この問題を解決しようというプロジェクトです。

今、ホテル、小売り、文化施設、飲食店、交通系事業、金融、病院などと協議が進行中です。例えば、ホテルのコンシェルジュお勧めのレストランの情報をおもてなしカードに送ると、タクシーに行き先をGPSで伝えたり、レストランでお勧めのメニューが提供されたりと、自動的にさまざまなサービスを連携して受けられる。そんな未来を想定しています。今の交通系ICカードは電車に乗れることと、少額貨幣になること以上の使い道がありませんが、IoTでその能力を上げてやろうということなんです。

電通報でも記事を掲載中

※後編は明日1月9日に公開します


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坂村健(さかむら・けん)
1951年東京生まれ。東京大学大学院情報学環教授、ユビキタス情報社会基盤研究センター長、工学博士。1984年からオープンなコンピューターアーキテクチャーTRONを構築。TRONは携帯電話の電波制御をはじめとして家電製品、オーディオ機器、デジタルカメラ、ファクス、 車のエンジン制御、ロケット、宇宙機の制御など世界中で多く使われている。現在、いつでも、どこでも、誰もが情報を扱えるユビキタス・ネットワーキング社会実現のための研究を推進している。2002年からYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長を兼任。2015年 ITU(国際電気通信連合)創設150周年を記念して、情報通信のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった世界の6人の中の1人として選ばれる。IEEEフェロー、ゴールデンコアメンバー。2002年総務大臣賞、2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞。著書に『ユビキタスとは何か』『変われる国・日本へ』『不完全な時代』『毛沢東の赤ワイン』『コンピューターがネットと出会ったら』など多数。

佐々木康晴(ささき・やすはる)
電通CDC専任局長、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、デジタル・クリエーティブ・センター長、Executive Creative Director, Dentsu Aegis Network。

1995年電通入社。コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年から2013年まで電通アメリカに出向。現在は電通とDentsu Aegis NetworkのECDを兼任する。これまでにUNIQLO、Honda、ANA、Coca-Cola、Canon、Googleなどを担当し、カンヌ金賞の他、D&ADイエローペンシル、CLIOグランプリ、One Show金賞、アドフェストグランプリなど国内外の受賞多数。カンヌなどの審査員経験や国際講演経験も多い。2011年クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。著書に『アイデアはパスポート: 世界で働くクリエイター』(共著)など。日本でいちばんヘタで過激なカヌーイスト集団「転覆隊」隊員。


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