「CES2016」現地レポート(2)「スマートシティは1.5 兆ドルのビジネス機会、AT&Tは積極的に参加する。」AT&T開発者会議開催に

【前回記事】「「CES2016」現地レポート(1)ー家電からテクノロジーへ、名実ともにテクノロジーが主役に。」はこちら

米国・ラスベガスで開催中の「CES(コンシューマー・エレクトロニクスショー)2016」。電通の森直樹氏がマーケティングとコミュニケーションの視点で、現地からレポートします。

なぜAT&T Developer Summitか?

CESレポート、第2回はCESではなくAT&T Developer Summitの速報です。なぜ、AT&T Developer Summitか?

AT&Tは米国の巨大な通信・IT企業であり、2000名以上のデベロッパー(開発者)を集めて、2015年の成果と2016年の取り組みについて発信を行っています。CESの前に、米国大企業によるテクノロジー投資や関心動向を伺う上で非常に有益な場なのです。

CESの主要なニュースは、多くの記者やブロガーによって発信されますが、「アドタイ」のレポートでは、企業のデジタルビジネスデザインとプラットフォームクリエーティブ手掛ける筆者独自の視点でお届けしたいと思います。ということで、まずは日本であり発信されていない、AT&T Developer Summitレポートからお届けします。

ビジネスは始まっている。

AT&T Developer Summitは、AT&T Mobile & Business SolutionsのPresident and CEOであるRalph de la Vega,氏の基調講演から始まりました。Ralph氏によると、AT&Tが昨年のCESで発表した、IoT向けプラットフォームサービスM2X Data Serviceは、すでに5万端末と接続し、クラウドに4億件のデータが蓄積されており300以上のインダストリアルIoTプロジェクトがスタートしていると話しています。

また2020年には250億〜500億の端末が接続されているであろうと、のこと。AT&Tはサミットを通じ、すでにIoTのビジネスは大きな規模で成長しており、AT&Tとビジネスをするデベロッパーに対して巨大なビジネス機会を提供することを示唆していました。昨年の同サミットに参加した筆者としては、1年でAT&TのIoT(IoTプラットフォーム)ビジネスが大きく進展していると感じます。米国においては、AT&Tという巨大な企業においても、デジタルビジネス領域のビジネス成長スピードを体感します。

フォードは2020年には1千万以上の車をコネクト

AT&TのRalph de la Vega, President & CEOと、フォードのRaj Nair CTO。

Ralph氏による基調講演では、フォードのCTO (チーフテクノロジーオフィサー)であるRaj Nair氏を壇上に迎え、フォード社とAT&Tが取り組む自動車のコネクティビティと、その可能性について語られました。Raj氏は、講演の中で、フォードが独占的なAT&Tとの提携により、米国とカナダで発売される全ての新しいフォード車に4G LTEが提供されることも発表に。今後、フォードではユーザーがスマートフォンを通じて、どこにいても保有するフォード車とコネクトすることが可能にするため、新サービスSINGNETをローンチし、2020年までに北米だけで1千万台との接続を目指していくとのことです。今後、自動車メーカーは通信キャリアとのアライアンスにより、スマートフォンを介したネット接続ではなく、クルマ自身が通信を行うことを前提とする車種も爆発的に増えることが予測されます。IP接続ベースのクルマでのコミュニケーションビジネスが本格的に始動するものと思われます。

市場規模1.5兆ドルのスマートシティに注目する

続いてGlenn Lurie CEO AT&T Mobilityが壇上に上がり、AT&Tがスマートシティのビジネスチャンスに大きく注目をしており、市場規模として1.5兆ドルの可能性があることを示唆しました。この市場に対してAT&Tは、交通・市民のエンゲージ・公共の安全・公共インフラなどの分野での事業展開の可能性を示し、シスコシステムズ、IBM、Intel、GE、クアルコム、エリクソンと戦略的提携により、巨大市場に対応していくと発表しました。さらにGlenn氏は、まずはアトランタ、シカゴ、ダラスからスマートシティビジネスに参入する意向を示し、アトランタ市長のKasirm氏を迎えて、スマートシティの持つ可能性の大きさについて発信していました。

街に暮らす人々やクルマ、道路、街全体がコネクトされる可能性を示されたことから、それらに対するコミュニケーションビジネスの可能性が気になるところです。

ヘルスケア向けIoTへの参入を狙う開発拠点

さらにAT&Tは現在、米国及び世界に5カ所、「ファウンドリー」とよばれるパートナー企業との共創スタイルを取り入れている開発拠点を有しています。2014年には、Connected car 領域に進出するためにAT&T Drive Studioを発表し、多くの自動車メーカー及びテクノロジー企業とカーテレマティクス向けのプラットフォーム開発とAPIの提供を行っています。

AT&T Developer Summitでは、この他にコネクテッドホーム、コネクデッドカー、の専門セッションがあり、どのセッションも賑わっていました。AT&Tは、どの領域にもプラットフォームをAPIを通じて提供しており、大企業からスタートアップまで、APIを活用したエコシステムを構築し、IoT領域のビジネス展開を狙っていることが伝わってきます。

今回、AT&Tは新たに、ヘルスケア向けの開発拠点として「Foundry of Connected Health」を発表しました。この開発拠点は、テキサスメディカルセンター内に設置され、テキサスメディカルセンターと、ダラスにあるAT&T Foundryと共同で医療・健康領域のIoTについて事業開発を担います。まずは、スマート車椅子、遠隔診断などに取り組むことを発表しました。

米国は、APIを軸としたクラウドベースでのエコシステムの構築は、IpT領域で事業成長を狙うどの企業にとっても、重要な戦略に位置づけていることが伺えます。この辺りが、内製志向の高い日本企業と、オープンなエコシステムを構築することで競争優位を高めることを前提に事業を作る米国企業のカルチャーの違いが現れているのではないでしょうか?



森直樹(もりなおき)
電通 CDC部長 事業開発ディレクター、クリエーティブ・ディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。デジタル&テクノロジーを活用したソリューション開発に従事し、AR(拡張現実)アプリ「SCAN IT!」、イベントとデジタルを融合する「Social_Box」、「SOCIAL_ MARATHON」をプロデュース。さらにデジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。最近は、経営や事業戦略に基づくUI・UXデザインや、ネット事業モデルによる事業革新の支援プロジェクトに取り組む。 日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)。著書に『モバイルシフト』(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST (INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia (PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo 公式スピーカー他、講演多数。


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