マネタイズは?指標は? 2016年、マスメディアが向かう先

必要なのは感情の起伏を測る指標

角田:最近、ネット動画で新しいアイドルが誕生しますが、ネットは甲子園で言うところの地方予選で、その決勝戦がテレビだと語られることが多いんですよ。そして、いまのテレビはなぜつまらないのかというと、決勝戦しか見せないからだと。昔は地方予選もテレビで見せていたからこそ、アイドルスター誕生をテレビの視聴者が見ることができた。そうした甲子園に行くまでのドラマが、テレビでは見られないと言われているんです。

境:Netflixもそうした文脈を汲んで出てきたものだと思っています。Netflixの台頭はテレビ業界に大きな影響を与えそうですが、今後はもっと大きな波が起きそうな気がしています。

角田:そうですね。テレビだから、ネットだからではなく、要はコンテンツの力というか、面白いものがお金を生むようになる。そうした潮流の元年になるのが、2016年なのではないかでしょうか。

―テレビをはじめとするマスメディアはいま、「見られていない」ということが、大きな課題になっていると言われています。

長崎:テレビや雑誌などのマスメディアは、接触の“率”が減っていると言われていますが、それはもしかするとメジャメントが合っていないのかもしれないと捉えることもできます。本当の意味で「影響力」は何なのかを考えると、必ずしも視聴率のような指標だけでは測れないと思います。視聴率は単純にどれだけの人が見たかという指標です。影響度についても測る指標がない以上は、「見られていない」といった認識も、ある種外れているのかもしれないと思うんです。

角田:僕も同じことを考えていて、個人にどれだけ刺さったかという指標をつくるべきだと思います。影響力指数のような、僕はインフルエンス・インデックス、略してII(アイアイ)と呼んでいるんです。

境:II、面白いですね。

角田:それをつくってしまえば「この映画は、IIが80だ」とか言えて、接触率にとらわれない新しいビジネスになる。電通さんや博報堂さんには、ぜひそういう指標をつくってもらいたいと、いろいろな場所で言っているんです。

長崎:動画広告もテレビ同様、視聴率や再生数、その他従来の効果指標では影響度を測りきれないこともあります。ただ、ニューロサイエンスの技術で感情の起伏を可視化する実験が進められており、すでにそうした技術を導入したコミュニケーションも、事例としては存在しています。

境:量ではなく質を評価するというのは、今後の流れになりそうですね。質を測る指標ができれば、CMにしても、短期的なキャンペーンではインパクト型を、長期的に流すものはジワジワ型というように、分類して出し分けができるようになります。

角田:そうなると、必ずしもインパクトを重視しない、15秒ではないCMも増えてくるかもしれませんね。

境:実際に、テレビCMは実は長い尺の方が有効ではないかという議論もあります。

長崎:ネイティブ広告も言葉の通り、周囲の形式や仕様に馴染んでいることから、ジワジワ型の広告だと言えます。国内でも海外でも、ネイティブ広告の良い事例とされるものは、だいたいシリーズものなんです。こうしたジワジワ型のコミュニケーションは、今後さらに広がっていくと思います。

境:ただインパクト型の広告はリーチ数が重視されてわかりやすかった一方、ジワジワ型の広告の場合は、指標が難しいですよね。

長崎:おっしゃるとおりで、現状でKPIとして用いられる指標は、リーチやリアクションの数が一般的ですよね。ただ最近とある企業の方から聞いて面白いなと思った話があります。その方はもちろん数値も見るんですが、効果指標として最も重視しているのは、Twitterをはじめとするコメントの中身だと言うんです。

境:それは面白い。そうしたものが指標になれば、データを見る側にもこれまで以上に目利き力が求められるようになりますね。

長崎:そうですね。やはり特定の人にどれだけ刺さったのかを測る指標は、今後より求められていくはずです。


境 治
コピーライター/メディア・コンサルタント

広告会社に入社し、コピーライターに。その後フリーランスとして活動したあと、映像制作会社に所属。現在は再びフリーランスとなりメディア・コンサルタント。Webマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」発行人。


角田 陽一郎
TBSテレビ 制作局 バラエティ制作部 兼メディアビジネス局 スマートイノベーション推進部

バラエティプロデューサー/ディレクター/映画監督。現在は、いとうせいこう/ユースケ・サンタマリアMCの深夜のトーク番組『オトナの!』などを制作。著書に『成功の神はネガティブな狩人に降臨する―バラエティ的企画術』他。


長崎 亘宏
講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼第一事業局 局次長 兼 広告戦略部長

デルフィス、マッキャンエリクソンでのメディアビジネス経験を経て、2006年、講談社入社。雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」設立に従事。JIAAネイティブ広告部会座長として、ガイドラインや広告効果指標の整備に携わる。2015年、「Web人of the year」受賞。

本記事の続き、「ユーザーが広告の拒否権を持つ時代」は、『宣伝会議』2016年2月号(2015年12月29日発売)に掲載されています。

同号の特集は、「読めばアイデアが湧く!メディア・テクノロジー・クリエイティブ 注目トレンド 2016」、「次なるヒットのヒントを掴む 2015 年の広告界を総決算」。2015年に話題になった広告界のニュース、トレンドを読み解きながら、2016年の広告界を大予測しています。


境 治さんの連載コラムはこちら

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