IoTには新しい社会を設計する大きなチャンスがある
佐々木:社外の人ともオープンに組んだチームで、以前、IoT財布のプロトタイプ「Living Wallet」を作りました。家計簿サービスと連動した財布で、赤字の時にお財布を使おうとすると逃げ、黒字の時はamazonの売上ランキングを読み上げ、物欲を刺激するというものです。
坂村:イノベーションは挑戦です。どんどん作りなさい! 大事なのはあきらめないことです。1000回やって、1、2回しか成功しない世界だから。おバカなものもないとダメなんです。これがおバカとは言っていないけど(笑)。とにかく色んなものがあることが重要で、他にない新しいことをやったものは評価しないといけない。
佐々木:そうですね。ただ、日本はリスクを極端に嫌いすぎるというか、成功するものにしか投資しない風潮もありますよね。
坂村:よければそのまま進めればいいし、ダメでもっといいものを思いついたなら、それも成果です。大事なのはあきらめないこと。1000回やってダメでも、2000回も3000回も、生きている限りやる。大学でいつも若い人と付き合っているけれど、若くても白けているような人はダメです。年齢も国籍も男女差も関係ない。
佐々木:先ほどオリンピックの話が出ましたが、2020年は“チャンスのるつぼ”ですよね。
坂村:情報通信技術を駆使して、スポーツに今までと違った見方を提供するのは、全世界的なブームなんです。ドローンもあるし、カメラは小型化されていきます。野球のボールにカメラが内蔵されて、ホームランで飛んでいく球からどう見えるか放送できる時代が来たって何もおかしくない。
佐々木:IoTはオープンに色んなものをつなげる技術です。自分たちでも新しいつなぎ方を発明していきたいと思いますが、IoT時代に向けた人材をどうつくればいいと思われますか?
坂村:日本は再教育に対して考え方がぬるいですね。日本人は、大学は高校を出たら行くものだと思っているけど、外国はそうじゃない。社会人も、勉強する必要が出てきた時に行くのが大学です。分からないことが出てきたら再教育すればいいんです。勉強もしないで、新しいテクノロジーは分からないなんて言っていたらダメ。最後まで勉強し続けるという姿勢でいないと。年齢は関係なくて、あるのは向き不向きだけです。
佐々木:IoTは便利なITグッズではない。新しい社会を設計する大きなチャンスがここにあり、僕らはビジネスとして関わっていけるんだと今日はよく分かりました。そのためにも常に勉強ですね。ありがとうございました。
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坂村健(さかむら・けん)
1951年東京生まれ。東京大学大学院情報学環教授、ユビキタス情報社会基盤研究センター長、工学博士。1984年からオープンなコンピューターアーキテクチャーTRONを構築。TRONは携帯電話の電波制御をはじめとして家電製品、オーディオ機器、デジタルカメラ、ファクス、 車のエンジン制御、ロケット、宇宙機の制御など世界中で多く使われている。現在、いつでも、どこでも、誰もが情報を扱えるユビキタス・ネットワーキング社会実現のための研究を推進している。2002年からYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長を兼任。2015年 ITU(国際電気通信連合)創設150周年を記念して、情報通信のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった世界の6人の中の1人として選ばれる。IEEEフェロー、ゴールデンコアメンバー。2002年総務大臣賞、2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞。著書に『ユビキタスとは何か』『変われる国・日本へ』『不完全な時代』『毛沢東の赤ワイン』『コンピューターがネットと出会ったら』など多数。
佐々木康晴(ささき・やすはる)
電通CDC専任局長、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、デジタル・クリエーティブ・センター長、Executive Creative Director, Dentsu Aegis Network。
1995年電通入社。コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年から2013年まで電通アメリカに出向。現在は電通とDentsu Aegis NetworkのECDを兼任する。これまでにUNIQLO、Honda、ANA、Coca-Cola、Canon、Googleなどを担当し、カンヌ金賞の他、D&ADイエローペンシル、CLIOグランプリ、One Show金賞、アドフェストグランプリなど国内外の受賞多数。カンヌなどの審査員経験や国際講演経験も多い。2011年クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。著書に『アイデアはパスポート: 世界で働くクリエイター』(共著)など。日本でいちばんヘタで過激なカヌーイスト集団「転覆隊」隊員。
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