共感の連鎖を生むPRで3年先を見越した計画を提案
さらに松本氏はこうした価値転換を起こすのは広告ではなく、PRだと断言する。
「今までの習慣や思い込みを転換するためには、情報の受け手に共感してもらう必要があります。一つひとつの共感の連鎖がブランドの支持者を生み出します。特徴と差別化、ある意味強制的な広がりが前提の広告では共感の連鎖は起こりません」。
図1のジェフリー・ムーアの理論のとおり、食品・ヘルスケア領域で事業を成長させるには、ボリュームゾーンであるアーリーマジョリティへのアプローチが必要だが、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には溝(キャズム)があると考えられている。松本氏は、このキャズムを乗り越えるためには、共感の連鎖を生みだすPRこそ有効であると指摘する。
PR会社とクライアントの契約形態やパートナーシップのあり方は様々だが、同社ではPR業務を受注した際、クライアントの事業計画づくりからスタッフが携わる点が特徴だ。「当社では大抵の場合、クライアントとおよそ3年先の中期戦略を考えることから始めます。3年後、クライアントの事業が社会のなかでどのような存在になっていたいのかを一緒に考え、その姿に近づくために必要なPRを提案しています」。
こうした考え方は、PR会社とメーカーの両方を経験してきた松本氏自身のポリシーでもある。
「消費財のメーカーは『本腰を入れてPRに取り組む』という段階にたどり着くまでが大変です。例えばPRをスタートする時には、チャネルはどうするか、売り場は確保できているのか、問屋との交渉は終わっているのか、売り場に商品を置いた後も売上を高めるニーズがあるのか、といった様々な準備が整っている必要があります。PRを始める以前の段階からクライアントとゴールを共有することが重要です」。
PR会社の役割が期待される一方で、本誌が広報部111社を対象に「外部委託に関する課題」について調査を実施したところ、「クライアントの事業をきちんと理解していない提案が多い」といった不満の声も寄せられている。松本氏はメーカーでの宣伝担当時代の経験を踏まえ、次のように指摘する。
「PR会社が思っている以上に、メーカーは『どれだけのメディアに露出させるか』よりも『どうやってこの商品を売っていくか』ということに関心があります。メーカーが欲しているのは、どんなに尖ったマーケティングメソッドやツールよりも、一緒に事業のことを考えてくれる良きパートナーではないでしょうか」。
PR会社とメディアは「生活者に役立つ情報を届けるという理念をともにする協働パートナー」であり、PRコンテンツをつくるときにも、読者や視聴者に有益であることを常に意識する。
具体的なアクションとしては、記者のもとに直接足を運んだり、メディアとFacetoFaceのコミュニケーションを徹底。地道な活動で積み重ねた信頼関係により、最近ではメディア側から「記者にレクチャーしてくれないか」と打診があり、専門メディアやウェブメディアなどを集めた、ヘルスケアや業界トレンドに関する勉強会を開催することもあるという。
PR会社と事業会社が良きパートナーとなる─。そんな未来を、松本氏は描いている。
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