神は細部に宿らない? 単位にまつわるエトセトラ。

ものをコントロールするには、その動きの基準となる最小単位に大きく作用されます。たとえば機械にしたって、その機械の動力となるネジのひとメモリの単位が基準になって、機械全体の動きが制御されます。わたしたちもこういった様々な単位に囲まれて生活しています。時間を制御する「秒」や、重さをはかる「グラム」。この単位が細ければ細かいほど、そこから発生する動作も結果的に細かくなるのではないでしょうか。ミリ単位の仕事が求められるものには、ミリ単位を動かす筋肉、そしてそれを図れる「ものさし」がなくてはなりません。

この単位において、アメリカは唯我独尊、かなり我が道を行っています。日常生活で使われるさまざまな基本単位をみてみましょう。

まずは長さを示す単位。日本をはじめ世界中のほとんどの国ではcm(センチメートル)を使っています。一方アメリカでは基本はinch(インチ)。インチはジーンズのウエストやテレビ、最近だと携帯の画面の大きさなんかにも使われるので、割と親しみがあるかもしれません。このインチ、センチメートルに直すと、1 inch = 2.54 cmとなります。そう、最小単位の長さが約2.5倍も大きいんです。

さすがにこれだと大きすぎるので、例えばネジや水道の配管の大きさなんかを表すときに½ inchや¼ inchを使いますが、あくまで基本の単位は1 inch。ついでにいうと、12進法なのでそこもややこしい。11インチの次は1Foot(フット)。身長なんかはこのインチとフットを合わせて表します。例えば170cm の場合、5′ 7″ (5フィート 7インチ)。ちなみに僕は171.5cmですが、その場合はというと、これも 5′ 7″。 もしくはサバを読んで5′ 8″。5′ 7 ⅜ ″とかは言いません。小さい頃に「背の順」にいい思い出がない僕としては、170 cmと171.5cmの差はでかいと(もしくは168.5cmと170cmだと、ほら結構ちがった印象ですよね。)思うのですが、細かいことはインチの世界アメリカではすっ飛ばします。

じゃあ体重はというと、これまたかなり大雑把。Pound(パウンド)という単位を使いますが、 1 Pound = 約 0.45 kg  日本では身体測定での体重の最小単位は 0.1 kg = 100g ですが、アメリカでは450g づつ刻んでいきます。約 4.5倍。50.2kgも50.5kgも同じ111Pound。100gごときのダイエットでは一喜一憂できません。女性の敵です。(それとも味方?)

ちなみにスーパーの肉や野菜コーナーでもPoundが単位です。½ Pound でも注文できますが、基本は1 Pound。液体はというと、基本は1 Gallon(ガロン) = 3.78 リットル。基本がこの単位なので、スーパーでは牛乳も1ガロンボトルで陳列されています。小さい子供には重すぎるので、「はじめてのおつかい」の番組はこの国では成立しません。(そもそも小さい子だけを残すと危ないし、育児放棄として逮捕されます。。。)ちなみにサンフランシスコなどインテリ層が集まる都市部のスーパーではハーフガロン(約2リットル)も多くなりました。当のアメリカ人も「ミッドウェスト(田舎の通称)はなんでもガロンだ。So American!」とこの光景をよく自虐的にネタにしているのですが、日本人の感覚からするとハーフでも十分でかいです。

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1ガロン(約4リットル)の牛乳ボトル

このようにして長さも重さも液体の量も、メートル法とアメリカのヤード・ポンド法は、比率における相関関係が(少なくとも直感的には)全くもってありません。ちなみにメートル法を採用していない国は世界を見渡せどアメリカとリベリアとミャンマーだけです。リベリアとミャンマーはメートル法の導入を発表しているので、純粋にはアメリカだけです。さすがユニークを重んじるアメリカ。

温度に至ってはもっと複雑です。世界中のほとんどの国では摂氏 (ºC) をつかっていますが、アメリカは華氏 (ºF)。この華氏、かなりのクセものです。水が凍る温度(つまり0ºC)は華氏では32ºF、沸点(100ºC)は212ºF。なんか中途半端。じゃあ真ん中の50ºCはというと、

(212ºF − 32ºF) ÷ 2

なので90ºF と思いきや、なんと正解は122ºF。

*こちら平均を求める時は(足して、割る2)ですね。なので(212ºF + 32ºF) ÷ 2=122ºF
ほら、アメリカに長くいるとこうやって細部に目を配らずにいろいろと大雑把になってしまうんですよ!(笑)というのは冗談で勘違いです。失礼しました。指摘していただいたかたありがとうございます。

せっかく刻む単位は摂氏よりも細いのに、何故かものすごく直感性にかけるし複雑。
冷えきった中年の夫婦関係でさえ、ここまで複雑にはなりません。

こんなもんだからアメリカで生活をしていると、いろいろなことが感覚的になってきます。

天気予報を見ていても、50度を下回ると肌寒い。70度は快適。80度を超えると暑い。だいたいそんな感覚です。日本の冬で寒さ厳しい最高気温8度の日と、ちょっと暖かな陽気の14度の違いのような、研ぎ澄まされた感覚はそこには存在しません。個人差はあれど、まわりのアメリカ人の友人も同じような感覚のようなので、せっかくの細分化された温度表記もそれを敏感に感じ取ってはいないようです。(あくまでも個人的な調査です。あしからず。)

次ページ 「お金の勘定にしてもおなじです。」へ続く

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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