「CES2016」現地レポート(6)米国経営層は何を発信したのか? セッションから探る今年のトレンド

【前回記事】「「CES2016」現地レポート(5)次の主役? ヘッドマウントディスプレイの存在感」はこちら

CES2016 REPORT6回目は基調講演やパネルディスカッションに注目したい。筆者がCESで過ごす時間の8割は基調講演や専門セッション、パネルディスカッションの聴講に充てている。なぜなら直接話を聞くことが難しい、米国大企業からスタートアップのトップ、経営層もしくはビジョナリストなど多くの人たちの話を短時間で密度濃く聞くことができるからだ。

テクノロジーの祭典であるCESだけに、経営層の人たちがテクノロジーやデジタルトランスフォーメーションに、どのように向き合っているのか、注目しているテクノロジーは何かが見えてくる。今回は、そんな多くの講演の中から筆者独自視点ピックアップをしてみた。

主役が変わった?CES2016の傾向

今年の傾向として筆者が感じた大きな変化は、基調講演(キーノート・スピーチ)を、Netflixの共同創業者 兼CEOであるReed Hastings氏と、IBM Chairman, President and CEOである Ginni Rometty氏、そしてYouTubeのChief Business Office Robert Kyncl 氏が務めたことである。これまで基調講演はソニーやサムスン、パナソニックなどの大手家電メーカーや、インテルやQualcommなどの半導体メーカー、そして近年では自動車メーカーが登壇していた。そしてNetflixなどは、どちらかと言えばサムスンなどの基調講演にパートナーという立場で紹介されるのが一般的であった。しかし今年は単独で基調講演を担い、最も注目を集めていたと言っても過言ではないだろう。

もちろんインテル、サムスンや自動車メーカーの基調講演もあり、そこではIoTへの流れについて大きな示唆があり、注目を集めていた。ただNetflix、IBM、YouTubeといったメーカーではない新興ネットサービス企業の雄や、IBMのようなテクノロジー会社が登壇したことが、CESの役割が転換期に差し掛かっていることを伺わせた。

Brian M. Krzanich氏, Intel CEO

インテルは、「コンシューマー・テクノロジーが未来をドライブする」とし、特にセンシング技術が中核となることを強調した。昨年のCESで発表した、IoT向け超小型PCのCurieの可能性について言及。X GAMESとのタイアップで、エクストリームスポーツを行う選手にCurieを取り付けることで、様々なデータ(加速度など)がリアルタイムで計測可能に。10ドル未満でこのCurieが出荷されることが発表された。

Ginni Rometty, IBM Chairman, President and CEO

IBMはコグニティブ(認知する)コンピューティングによるIoTが、全ての環境・社会を構築するであろうと発言。IBMは10年前に機械学習領域にWatsonで参入、現在は50のテクノロジー領域についてAPIを通じてビジネスに取り込むことを可能にしているとした。また現在は80%のビックデータは理解されていないが、それが可視化されるようになってきている。最新の事例として、エアバスやアンダーアーマー、医療機器大手の米メドトロニックの糖尿病ケアAppとの連携にWatsonによるビックデータ解析を活用しているとのことだ。

Benedict Evans, Andreessen Horowitz

米国で最も注目されるVCのひとつである、Andreessen HorowitzのパートナーであるEvans氏は、Disrupt=既存のエコシステムの破壊について示唆した。Evans氏によると、あらゆる製品や産業において古いビジネスモデルや、物理的な資産(売り場などの物理的な場を含め)から離れ、ソフトウェアが重要になっている。物理的な場を必要としない、ソフトウェアとインターネットにビジネスの重心が移っているから。また今日のイノベーションはソフトウェアの開発に莫大なリソースを必要とせず実現する。簡単なアイデアがあれば誰でもソフトウェアをつくれるし、それによりビジネスに参入できるようになった、と言及した。

Betty DeVita, MasterCard Lab Chief Commercial Officer

Vita氏は「MaterCardは2015年のホリデーシーズン、全世界の小売市場に占める割合が7~8%であったが、その中でモバイル、PC、タブレットによるオンラインショッピングが20%以上であった」と話した。さらに購買の世界においても技術革新とイノベーションが起きている点、そうした動きに対するMasterCard Labの取り組みを例に取り上げた。同社では、単なる決済機能を超えた次世代ソリューションに焦点を当てている。例えば無人販売、3Dプリンティング、スマートロボット、自動運転車、ドローンなど。MasterCardでは、テクノロジーによって変わる新しい消費体験を研究し、消費者の変化に合わせた新しい買い物体験を創りださなければならないと考えているからだ。さらにCESに出展しているサムスンのタッチスクリーンが設置された冷蔵庫(これはオンラインショッピングが可能な冷蔵庫なのだが)の取り組みについて、触れていた。MasterCardのテクノロジーに対する意識や取り組み、彼らが見るテクノロジー領域が3Dプリンターやドローンにまで至っているということには非常に興味深い。

Robin Chase, Zipcar Co-Founder and Author

Zipcarは、2000年に創設された革新的なカーシェアリング企業であり、Chase氏は同社の共同創業者でありシェアリングエコノミーの提唱者でもある。最初にZipcarの成功について、3つの要因を挙げていた。①余剰設備という考え方-保有しても活用されない時間が多いモノについて、日毎・時毎に貸し出すことで解決する新しい価値提供。②参加しやすい、デジタルによる新たなプラットフォームの構築。③顧客は会員であり企業と対等な協力者であるという概念を、顧客が給油やクリーニングする仕組みを例に解説した。さらにChase氏は、余剰設備=シェアリングビジネスの資産であるとし、あらゆるビジネスにおいてシェアリングエコノミー−によるビジネス転換の可能性があるとの示唆を示した。

Susan o’Day, Enterprise Technology and CIO The Walt Disney Company

ウォルト・ディズニーは、テクノロジーの活用で重要なことは、いいものをつくるときにテクノロジーの部分は顧客に見えないことであり、サービスが全面に出ている状態だとした。しかし、テクノロジーが創出するストーリーと体験は非常に重要であり、最近ウォルト・ディズニーのCEOが400名程の幹部に対して、「当社はテクノロジーを愛している」と語ったエピソードを披露した。この発言は、ウォルト・ディズニーがテクノロジーにどのように向き合い、また企業文化に根付いているのかを示唆している。



森直樹(もりなおき)
電通 CDC部長 事業開発ディレクター、クリエーティブ・ディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。デジタル&テクノロジーを活用したソリューション開発に従事し、AR(拡張現実)アプリ「SCAN IT!」、イベントとデジタルを融合する「Social_Box」、「SOCIAL_ MARATHON」をプロデュース。さらにデジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。最近は、経営や事業戦略に基づくUI・UXデザインや、ネット事業モデルによる事業革新の支援プロジェクトに取り組む。 日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)。著書に『モバイルシフト』(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST (INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia (PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo 公式スピーカー他、講演多数。


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