愛着を感じにくい「東京」という都市
2020年にオリンピック開催を控える東京。いま東京にこそ、シビックプライドが必要ではないか——。「シビックプライドと東京」をテーマに議論したパネルディスカッションでは、都市フォントプロジェクトを推進するタイププロジェクトの鈴木功社長と、建築家の太田浩史氏、シビックプライド研究会 代表の伊藤香織氏が登壇した。
冒頭、太田氏は「東京に愛着を持ちにくい理由」を解説。東京は①大きすぎる(神田、下北沢といった部分としての地域に親しみを感じやすい)②地元出身者の居住率が低い、③首都機能が強い(一都市というより、国の中心地としての性格が目立つ)④住む人々が東京とかかわっていると感じる機会が少ない、といった大きく4つの事情から、全国的に見ても都市に愛着を持ちにくい都市であるという問題提起を行った。
加えてドイツのベルリンが「InfoBox」という都市情報センターを設置し、ポツダム広場の開発の様子を、市民が直に見られるようにした例を紹介。「まちがつくられていく高揚感や未来へのビジョンを共有し、シビックプライドを喚起するひとつの方法として情報センターを作ること」を提案した。
また、都市と市民のコミュニケーションポイントを紹介。センターは、コミュニケーションポイントのひとつであり、フォントやロゴ、グッズなどもシビックプライドの育成を助けるツールのひとつだと解説した。
東京でシビックプライドを醸成するために
鈴木氏は、自身が東京へのシビックプライドを感じた瞬間として「AXIS Font」が西武鉄道の案内表示で使われたことを紹介。自身の活動と都市の関連性を実感することが、都市への愛着につながる、と話した。
愛着を抱くために重要なこととして、太田氏は「都市の可塑(かそ)性」を挙げた。可塑性とは、粘土のように、力を加えて変形させた後、力を取り去って戻らない性質を指すが、「都市にはさまざまな未来の可能性があり、そこへ人が働きかけることで変化を与えることができる。こうした可能性を市民に伝えられていないために都市への愛着が育まれないのではないか」と指摘。そのためにもコミュニケーションポイントが重要であると話した。
伊藤氏からは、「東京がシビックプライドを醸成していくために何から始めれば良いか」という質問が両氏に投げかけられた。鈴木氏は、「自分がまちから必要とされた時に何ができるのかを常に考えること」と話し、都市の側からも、どこでかかわれるかのメッセージを発信し「それが双方向になれば動き出すのでは」と話した。
太田氏は「都市には人がたくさんいて、その多様性を認め合うことが感じられる場所として情報センターを活用すること」だと話した。
パネルディスカッションを行った会場には、自治体や、ディベロッパー、デザイナーなどさまざまな立場の人が集まった。「それぞれの立場でシビックプライドを考えるきっかけになれば」と伊藤氏は話し、パネルディスカッションを締めくくった。