SMAPの解散騒動に見る、ネット上での叩かれ方
その一方、「圧倒的に叩かれ要素しかない」存在もいる。それは、SMAPの解散騒動の渦中の人、ジャニーズ事務所のメリー喜多川副社長だ。あとはメンバーの中で一人ジャニーズ事務所に残るという選択を当初取った木村拓哉だ。
今回の騒動は、基本的にはメリー氏ら創業者サイドと、SMAPの育ての親・飯島マネージャーの対立が発端となっている。『週刊文春』に掲載されたメリー氏の5時間インタビューの中には、娘・ジュリー氏を次期社長にすると、飯島氏を呼びつけそのことを伝えるシーンが登場する。そんなことがあった末の権力闘争であり、クーデターだったわけだ。しかし、あっさりとメリー氏の恫喝によりクーデターは失敗。飯島氏だけが追放され、SMAPは事務所にとりあえずは残ることとなった。
この場合、89歳のメリー氏はネットの嫌われ要素の役満とも言える状況にある。「老害」「出しゃばり」「恫喝」「パワハラ」「人気者の敵」「いい加減に隠居しろ」といった要素を持っている。同様に嫌われるタイプである渡邉恒雄・読売新聞会長/主筆や森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長と肩を並べる「三大老害」に、今回は名乗りを上げた。
木村拓哉の場合は、以前からネット上では嫌われていた。汚れ役もギャグもできるSMAPの中で唯一それらの役柄を免除され、とかく別格扱いされがちだったからである。その王様待遇っぷりがネットでの嫌われ要素だった。そして今回も一人残ると宣言し、その後の芸能マスコミが美談に仕立て上げようとする様を見せられ、ネット上では「メリー・木村連合VS飯島・その他4人」の構図となり、全面的に木村も悪役扱いされたのだ。関ヶ原の戦いで西軍を裏切り、勝敗を左右する結果となった小早川秀秋にたとえ、木村は「小早川拓哉」とも呼ばれるようになる。
同じ行為をしても、嫌われる企業と愛される企業
「なぜか嫌われる企業」を構成する要素は無数にある。ネガティブな点をメディアが報じたり、SNSで何らかの報告があった場合、すぐに嫌われる対象となる。「社長がエラそう」「サービスが悪い」「ぼったくりをする」などは当然のことながら、「値段が高い」という経営戦略上の自己都合であっても叩きの対象となってしまうのだ。
その嫌われ企業の代表格といえば日本マクドナルドだが、要素としては「(1分で商品出します宣言やレジ横メニュー廃止など)余計なサービスをする」「品質に疑惑がある」「経営者(原田泳幸氏、サラ・カサノヴァ氏)がむかつく」「キツいバイトの代表格」といったものがあるだろう。かつて59円ハンバーガーなどネット民にとってありがたい存在だったマクドナルドだが、原田、そして現在のカサノヴァ体制になると、創業者・藤田田氏が神格化されるようになる。だからこそ「マックは変わっちまったよ……」と言われる。
恐ろしいのは、こうした「なぜか嫌われる企業」に入ってしまうと、「なぜか愛される企業」が実施すると称賛される行為でさえ、叩きの対象となってしまうことだ。
私が関わっている「NEWSポストセブン」というサイトで、モスバーガーが高齢者を積極的に採用しているという記事を写真付きで出した。東京・五反田の店舗を試験的にそうしているのだが、高齢のスタッフを「モスジーバー」と呼ぶのだという。この時、ネットでは「なぜか愛される企業」の代表格でもあるモスバーガーを絶賛する声だらけだった。大まかに分けると「この店行くと確かにほっこりする」「おじいちゃん頑張って!」「これはいい取り組み」といったところだろう。
しかし、同じことをマクドナルドがやったらどうなるか。これはあくまでも予想なのだが、「マックジーバー」をやった場合はこんな声が出る。「高齢者虐待だ」「若者の雇用を奪う気か」「ちんたらしてるんだよ、ジジイ」。挙句の果てには「ジーバーなんて差別用語だ」といったことにもなるだろう。結局、ネットの場合は「何を言うか」よりも「誰が言うか」のほうが重要だったりもする。よって、自分の会社やクライアント企業がネットではどのように捉えられているかは把握しておいた方がいい。ネットを覆う「空気」のようなものに合わせて、情報発信のやり方は考えた方がいいのだ。その際に参考になるのは、グーグルの予測変換とサジェスト機能である。企業名やサービス名を検索窓に入れて一緒に出る単語が何かによって、「空気」はつくられていく。
たとえば、先ほど登場したマクドナルドの原田泳幸氏(元社長)を見てみると「疫病神」とまで出る始末である。不正会計(粉飾決算)で問題となった東芝の場合は「不正会計」や「リストラ」が出てくる。予測検索の結果は「みんなが知りたいこと」である。よって、その会社に対して人々が抱くイメージとイコールであるとも言える。
本記事の続きは、『宣伝会議』2016年3月号(2月1日発売)に掲載されています。
同号の特集は、「デジタル時代の新ブランド戦略」。デジタルテクノロジーの浸透によって、ブランドのつくられ方は大きく変容し、企業のブランド戦略も見直しを迫られています。あらゆる業種の企業担当者へのインタビューを通じ、デジタル時代のブランド戦略のあり方を再考します。