アウディ、ローソン、ライフネット生命保険が語る「デジタル時代のブランド戦略論」

商品・サービスのコモディティ化が進行し、資産としてのブランドの重要性が高まる一方で、ブランドを形成する要素、形成のプロセスが複雑化している現在。企業とユーザーとの接点が広がり、あらゆるシーンにおけるデジタルシフトが進む中、ブランドはどのように形成されるのか。業種の異なる3社が語り合った。

(左)アウディ ジャパン マーケティング本部 デジタル &CRMマネージャー 井上大輔氏
(中央)ローソン デジタルプラットフォーム部 マネジャー 白井明子氏
(右)ライフネット生命保険 営業本部 マーケティング部長 岩田慎一氏

内容まとめ

ブランドはますます“企業がつくるもの”から“消費者の中につくられるもの”に
メーカーが商品をローンチする際、徹底して市場調査を行うが、当初の計画を達成することは稀。これまでとはブランドのつくられ方が大きく変化し、企業から消費者に押し付けるような一方通行のブランディングが通用しなくなった。

デジタル時代では、ユーザーエクスペリエンスが新たなブランドの通貨に
UXを向上させる施策の積み重ねが、ブランドを形成していく。ただしUXは、ブランドを形成する一要素であり、同時にデジタルの世界だけで完結するものではない。リアル店舗などを含め、接点全体でいかに体験価値を向上させられるかが重要。

重要なのは、いかに認知されるかではなく、どのように第一想起をされるか
純粋想起されるためには、フリークエンシーを重視すべき。現在はデータを分析すれば、SNSなどを通じて効率的にフリークエンシーを上げることも可能。同時に、単純にフリークエンシーを上げるだけでなく、記憶に残る施策を行うことも必要。

ブランドは消費者の中につくられる

—現在、担当する仕事の領域について教えてください。

アウディ ジャパン マーケティング本部 デジタル&CRMマネージャー 井上大輔 氏
Yahoo! Japanプロデューサー、ニュージーランド航空オンラインセールス部長、LUX/Dove/Liptonなどを手がけるグローバルFMCG企業ユニリーバでのEC&デジタルマーケティングマネージャーを経て現職。業種や業界、企業の国籍をまたいだマーケティングの実務経験をもとに、IMC・ブランディング・ダイレクトレスポンスと幅広い領域を守備範囲とする。

井上:主にデジタルとCRM領域を担当しています。オウンド・ペイド・アーンドのトリプルメディアの最適化に加え、大きなミッションとしては広告とCRMとのインテグレーションです。CRMで得たデータをDMPに入れて、広告のターゲティングを最適化する取り組みなどを行っています。アウディ ジャパンに在籍する以前にも、消費財メーカーや航空会社、プラットフォーム事業者など、さまざまな企業でデジタル領域を担当してきました。

白井:現在、複数の部署を兼務しているのですが、なかでも主軸を置くのはデジタルプラットフォーム部です。ローソンでは最近、マーケティングとITを連携させ、デジタル関連の仕組みやコンテンツを内製化できる体制づくりを進めています。内製化を目指すのは、あらゆる顧客対応においてスピードが求められるためです。マーケティングを主務としていた私がデジタルプラットフォーム部に属し、ITを担当しているということが、現在のローソンのデジタルに対する考え方を象徴していると思います。

ライフネット生命保険 営業本部 マーケティング部長 岩田慎一 氏
2011年ライフネット生命保険入社。マーケティング部長として、広報・広告領域を担当。ライフネットジャーナル編集長。第10回web人賞受賞。

岩田:ライフネット生命保険は主にネットで保険を販売しており、2016年で8年目を迎えた、まだまだ若い会社です。私の担当はマーケティングの統括で、広報と広告に関することを行っています。広報ではプレスリリースの発行やメディア対応など、広告ではオンラインとオフライン、ソーシャルメディアも含めて自社サイトへの集客全般を手がけています。

—情報環境の変化によって、ブランドのつくられ方がこれまでとは大きく変化しています。その変化をどのように捉えていますか。

井上:ブランドは“企業がつくるもの”ではなくなっていると感じます。たとえば、メーカーがプロダクトをローンチするにあたっては、市場調査などを徹底して行いますが、当初の計画を達成することが難しくなりつつあります。それは企業がブランドをつくり、消費者に押し付けるといった一方通行のブランディングが通用しなくなっていることを意味していると思います。以前、ニワンゴの社長、杉本誠司さんにお話を伺う機会があり、なぜ「ニコニコ動画」のようなサービスをつくれたのかを聞いたところ、ただひたすらユーザーがどう使っているのを観察したのだとおっしゃっていました。使われ方を見ながら機能を追加していくうちに、サービスができたのだと。つまり、企業がブランドをつくるのではなく、“消費者の中につくられる”ようになったことが、最も大きな変化なのではないかと思います。

ローソン デジタルプラットフォーム部 マネジャー 白井明子 氏
デジタルプラットフォームを用いた施策(キャンペーンシステム、Web、アプリ、SNS、イベントなど)の構築と企画を担当。2012年「Web人大賞」、2013年 日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞」受賞。2015年ACC賞インタラクティブ部門審査員、法政大学イノベーションマネジメント研究センター客員研究員。

白井:ローソンは小売り・流通企業であるため、最大の顧客接点は店舗であり、店舗での体験がブランドを形成する上で、大きな要素になります。ただ最近は店舗での体験以外にも、当社に関わる社会的な動きがあった際、企業としてどう対応するのかが注視して見られるようになっていると感じています。SNSの浸透で企業の意思決定、それに対する消費者の反応、評価も可視化されるようになってきました。しかもネットを中心に、情報が流通するスピードは加速度的に速まっているので、企業もすぐに的確な判断を下さなければなりません。そして、そうした日々の積み重ねでブランドはつくられていく。ブランドを形成する要素はますます複雑になっていると感じます。

岩田:当社の場合、保険という商材は無形であり、かつ当社独自の店舗も持たない業態なので、生活者の中のマインドシェアを高めることが重要だと考えています。「ブランド=認知」というように語られることが多いですが、認知ではなく第一想起において、どのような感情を伴うかが重要です。最近、『コトラーのマーケティング3.0』を再読していたら「ブランドはいまや生活者のもの」という一説があり、井上さんもおっしゃっていたように、ブランドは企業によってではなく、生活者によってつくられるようになったのだと再認識しました。

次ページ 「UXが現代のブランドの通貨に」へ続く

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