UXが現代のブランドの通貨に
—デジタル時代ならではのブランド形成の取り組みとして、具体的にどのようなことを行っていますか。
井上:デジタル時代においては、ユーザーエクスペリエンス(以下 UX)が新たなブランドの通貨になっていると感じます。実際に、グーグルやアマゾン、アップルといった企業は、テレビCMなどのブランディングに特化した施策は行わずとも強固なブランドを形成してきました。これらの企業がどのようにブランドを形成してきたのかと言えば、たとえばWeb上でいかに早く、見やすくページを表示させるかといったUXを愚直に追求してきたのです。つまり、そうしたUXを向上させる施策の積み重ねが、結果としてブランドを形成していったと言えると思います。一方で日本の企業で多いのは、ブランドの世界観を体現しようと、Flashを使って凝ったコンテンツをつくるのですが、それによって表示に時間がかかり、ユーザー離脱を促してしまうといったことです。当社でも現在は、UIやUXをいかに向上させるかに注力をしており、実際に予算を投資しています。具体的には、Webサイト上のデザイン設計に際し、「どの文脈で来訪するか」「誰に」「何をしてもらうのか」というオブジェクティブをもとにして、設計図の段階からウォークスルー(ユーザーになりきってサイトを使ってみるテスト)を行っています。ゆくゆくはデジタルの部門のなかにUX専門の部隊ができる可能性もあるのではないかと思っています。
白井:会社としては「デジタル・イノベーション」を謳っていることもあり、これまで外注していたIT業務の一部を社内で行うようにし、マーケティングとの融合も進めています。UXの話が出ましたが、UXで言うところの「体験」は、決してデジタルの世界だけで完結するものではありません。当社で言えば、店頭における体験でも、デジタルテクノロジーの導入によるオペレーションの改善によって、体験価値を向上させられればと考えています。こうした課題をクリアしていくためにも、「スピード」「内製化」といったことは、現在のローソンにとってのカギと言えます。
岩田:従来、保険商品は営業担当という「人」を信頼して買うものでした。そして、デジタル時代でもその本質は変わらないと思います。そのため、創業時から代表の出口(治明)や岩瀬(大輔)をはじめ、社員がブログやSNSなどを通じて情報発信をしてきました。当社はもともとデジタルからスタートしていることもあり、デジタルで特別なことをしようというよりは、従来型のビジネスで機能していたことを、デジタルならではのやり方に変換していくことを意識して取り組んでいます。
—社員の方の実名を出しながら、“顔が見える”ようにすることは、ブランド形成において、意図して行っているものなのでしょうか。
白井:ローソンは積極的に社員を会社の顔として出しています。ただその際は、広報部門で情報の精査を行うことで、企業としての統一した見解や方向性を担保するようにしています。社員を出すことは、リクルート効果にもつながっていると思います。
岩田:当社は経営陣に限らず、社員を出すことも多いですが、白井さんがおっしゃるように、リクルート効果はたしかにありますね。ブログを見られた方が採用面接に来られたり、この人と一緒に働きたいと言っていただいたりということはあります。