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安宅氏のサロンスピーチ
“AI x データはビジネスをどう変えるか”
筆者も週末を中心に教壇に立っている事業構想大学院大学では、学外の識者をお招きして「サロンスピーチ」という取り組みを定期的に開催している。2015年12月15日にはAI×データはビジネスをどう変えるかというテーマでヤフーのCSOである安宅和人氏のサロンスピーチが行われた。
講演会は予想以上の申し込みがあり、サテライト会場もいっぱいになる盛況ぶりであった。聴講希望者をタイトルより想像される通り、最新のトレンドを追った内容であったが、一貫して出されたメッセージは「データアナリストなどの人材が足りない」といった日本の将来を憂うメッセージであった。今回はその講演内容と共に人材不足という問題を紹介していきたい。(文中の参照資料は当日の投影データではなく、経済産業省の)産業構造審議会 新産業構造部会(第2回)—配布資料からの抜粋。また、月刊事業構想3月号にも関連記事が掲載されているので参照願いたい)
データ×AI=新しい国富のメカニズム
安宅氏によると、データとAI(人工知能)は新しい国富のメカニズムと言えるものである。世界的に見ても、現在の企業の時価総額上位にはApple社を始め、軒並みIT企業が顔を並べている。市場による投資家の評価ではあるが、企業のIT化度合いと未来を変えていく可能性の有無が、企業の価値を示す重要な指標になったということだろう。また同氏は、バブル崩壊後にあたる1995年以降の日本の産業の実質GDP推移を分析しているが、この間はIT産業なしには日本のGDPは成長していないという。すなわち1990年後半以降、日本を含む先進国ではITなしには経済的な成長が難しい局面に入ったのではないかと分析している。
そしてその変化は、産業革命にも匹敵するレベルではないかということである。産業革命では内燃機関(主に蒸気エンジン)、石炭と石油といった化石燃料および電気工学が発展し、人間と家畜を単純な肉体労働や手作業から解放した。それと同様に、現在の情報産業革命はビッグデータという資源を高い計算能力と統計分析やAIのような情報科学の進化により、人間を単純な知的作業、すなわち数字入力や情報処理作業から解放してくれるのではないかということである。
今やコンピューターを持ち歩ける時代になった。読者の皆様も手にしているスマートフォンは、1980年代のスーパーコンピューターに匹敵する性能を備えている。それを持ち歩いているのと同じということは、過去には想像できない大革命なのではなかろうか? 現に筆者も最近はこのコラムのテキストを入力はほとんどスマホの音声認識を通じておこなっている。これはスマートフォンの著しい普及と人工知能(機械学習)の進歩により、日々文章入力能力が向上して入るから可能になったことだろう。そしてそれは圧倒的に進化したデータ量、計算能力、そして通信速度に支えられているものだ。