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今回のゲストについて
5カ月前に博報堂から独立した牧野圭太さんの名刺から、コピーライターという肩書きが消えていた。「自分で何もつくっていないというコンプレックスがあった」と話す牧野さん。新たに立ち上げたデザイン会社「文鳥社」で、どんなことを始めたのか。また、博報堂を辞めた理由とは?
※このインタビューは東京・下北沢にある本屋B&Bでのトークイベントの内容をまとめたものです
牧野圭太(まきの・けいた)
株式会社文鳥社 代表
1984年11月21日生まれ。早稲田大学理工学部卒業。2009年博報堂に入社し、コピーライターに配属。その後 HAUKHODO THE DAY などを経て、2015年7月に「文鳥社」を設立。「文鳥文庫」や「旬八青果店」など、事業開発とクリエイティブを掛け合わせる業態を目指す。
やりたいことがたくさんあるから「自社事業」を増やしたい。
長谷川:牧野さんと僕は1984年生まれで同い年のコピーライターなんですよね。でも牧野さんは5カ月前に独立したので、僕にとっては独立の先輩です。最初に、牧野さんが立ち上げた「文鳥社」という会社について教えてください。
牧野:僕が立ち上げたのは「デザイン会社」です。デザインというとロゴやグラフィックなどの外面の仕事をイメージする人が多いかもしれませんが、それだけではなく、経営資源となるようなブランドづくりなど、事業そのものに関わるような広い意味でのデザインを提供していけたらいいな、と思っています。
長谷川:僕の今後の仕事は主にクライアントから依頼を受ける受託事業になると思うのですが、文鳥社の「受託事業」と「自社事業」の割合はどのような感じですか?
牧野:多くの場合、デザイン会社というと受託事業をイメージしますよね。でも、僕は受託をできるだけ減らして自社の開発事業を増やしていきたいと思っています。目標は5:5ですね。とにかく、やりたいことがたくさんあるので、できるだけ自分で形にしたいんです。
長谷川:いま、文鳥社の自社事業として「文鳥文庫」がありますよね。これ、最初に手にとったとき、衝撃的でした。『走れメロス』や『檸檬』などの有名な短編小説が1話ずつ150円で買えるという、新しい文庫本の形なんですよね。僕は、いろいろな人にプレゼントしています。
牧野:これは、2年前からの構想をやっと実現させたものです。本が売れない時代に、「iPhoneより重い文庫本を手に取ってもらうにはどうしたらいいだろう?」というところから考え始めました。文鳥文庫なら、小さくて軽く値段も安いので、本の入口として使ってもらいたいと思っています。
いまはまだ、これが事業の柱と言えるほどではないのですが、少しずつ広げていけばいいと考えています。逆にいまの時代は、流行したものほどすぐに消えていくのでゆっくりいきたいです。
実際にスタートしてみて、自分の事業があるほうが、クライアントの仕事をする際にも活きていると実感しています。自社事業のノウハウを受託事業に活かすという循環にしていきたいですね。
長谷川:現時点で、独立してよかったと思っていますか?
牧野:それはもちろんです(笑)。楽しいことばかりですね。貯金もだんだん減っていて、通帳の残高を見て心が沈むこともありますが、辞めてよかったと思っています。自由も責任もすべて自分次第です。たとえ失敗したとしても、いまは何をやっても自分の糧になると感じています。失うものも、とくに思いつきませんしね(笑)。
長谷川:確かに、たとえ会社が潰れても借金をしても、やりたいことをやって失敗したのなら幸せなのかもしれないですね。
牧野:そうですね。会社を辞めずに幸せになる人もいると思います。それは個人の価値観ですし、博報堂は比較的そういう人が多い会社だと思います。でも、もし何か「自分でやりたいことがある人」はチャレンジするべきだと思います。