日本で暮らす家族のために、アプリつくりました。

【前回】「神は細部に宿らない? 単位にまつわるエトセトラ。」はこちら

海外で暮らしていると、離れて暮らす家族の大切さが身にしみます。子供が風邪をひいたって手伝いを気軽に頼める両親はいないし、時差もあってなかなか連絡もとりづらい。ただでさえ大変な異国での生活ですぐそばに頼れる身内がいないというのはなかなか辛いものです。

前回のコラムでは、久しぶりに日本へ里帰りをした話をご紹介しました。出張と帰省を兼ねた旅行でしたが、実はこの里帰りで果たさなくてはいけない、すごく個人的でとても大事な目的がありました。今回はそのエピソードをご紹介します。

お義母さんと僕の息子

僕の奥さんの実家は長崎です。長崎といっても長崎市内から車で2時間、島原半島の一番先端にある人口六千人のほどの小さな漁港町です。近所のスーパーでは地元の漁港で取れた新鮮な魚が安価で手に入り、しかも本当においしい。サンフランシスコでは七切れほどのハマチの盛り合わせを頼めば15ドルは取られますが、ここでは生簀のハマチを一匹まるまる刺身(+カマ付き)にしてもらっても、たった1500円です。社会人のほとんどをアメリカで過ごした僕にとって、新鮮なハマチの刺身って「コリコリ」している食べ物なんだと長崎に来てはじめて知りました。(東京の皆さん、築地の魚もいいですが、やはり現地で食べる魚は格別ですよ!)都内の高層マンションが実家の僕にとって、それとは真逆の田舎への帰省は、いつからかとても楽しみなイベントになりました。

早いころにご主人(僕の義父)を亡くされたお義母さんは、女手一人で三人の子供を育て上げられました。上の二人はお兄さん。末っ子(僕の奥さん)は大事な一人娘。その大事な一人娘を、ましてや異国の地へ嫁がせるなんて、それはとても心配だったに違いありません。娘さんを連れて行ってしまった僕ができること、それはどんな時でも簡単に連絡がとりあえる環境をつくることでした。

はじめて実家を訪れた7年前。奥さんの実家は未だにISDN回線。そしてWindows MEが走る10年落ちのパソコン環境。それからというもの、ちょくちょく帰るたびにIT環境をアップグレードしていきました。まずはほとんど使われていないISDNを解約し新たにADSLを契約(しかもそっちの方がずっと安かった!)。昔のパソコンは処分して、ちょうどその頃に発売されたばかりのiPadをプレゼントしました。Wifi環境を設定し、必要最低限のメールやビデオ電話アプリをインストール。それまでは国際電話のために料金が気になってなかなかできなかった電話が、顔を見れるビデオ電話に、しかも無料だと聞いてお義母さんはとても喜んでくれました。これで娘や孫たちの顔をいつでも見れると。

喜んでアメリカに帰ったものの、すぐにある問題に直面しました。どうしても避けられない問題。それは時差です。サンフランシスコの朝は日本の深夜、サンフランシスコが夜になると日本は日中。仕事に出ているお義母さんとリアルタイムで電話をするにはなかなかタイミングがありません。

孫の顔を見せたくてもなかなかタイミングが合わない。SNSを使って写真をシェアすることもできますが、プライベートな家族写真をたくさんアップすることには気が引けます。ましてやお義母さんが一人でSNSを使いこなすには敷居が高すぎる。結局メールで写真を送ることにしたのですが、添付された写真を保存して整理するといった操作はどうにも難しいようでした。周りを見ても、特に子供をもつ家庭では同じような不満を抱えている人が多い。うーん、何かもっと簡単な方法はないものか。当時はiPadが発売されたばかりでアプリの数もまだ少なく、これはというものはありませんでした。

「アルバムみたいに簡単に見れないの?」

実家のお義母さんにとって僕はパソコン博士。大事な娘や孫を外国に連れ出しておいて「出来ない」なんて言えません。

「そうだ、アプリを作って次の帰国の際にお義母さんにプレゼントしよう!」

僕の職業は親世代に説明しても(いや、同世代でもですね。)なかなか理解しづらい仕事です。つくったものを使ってもらえたら、たとえそれが本業ではないにせよ何をやっているのかなんとなくわかってもらえるかもしれない。僕としてもトレーニングになる。そうだ一石三鳥じゃないか。そう思い立って(新鮮な刺身に後ろ髪を引かれながら!)長崎をあとにしました。

次ページ 「サンフランシスコに戻り」へ続く

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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