日本で暮らす家族のために、アプリつくりました。

サンフランシスコに戻り、早速作業に取り掛かりました。アプリのデザインは一応本業です。

  • iPhone Android ガラケー、機種を問わず家族の誰からでも写真を受け取れる。(クロス・プラットフォーム)
  • お義母さんでも一人で使いこなせる操作感。そして年配の方にも大きくて見やすく。(直感的なUI/UX)
  • 大事な家族の写真なので完全にプライベート。

この3本を軸に設計をはじめました。

まずはクロス・プラットフォーム。それぞれのプラットフォームに専用のアプリを作る方法もありますが、個人プロジェクトで作るには敷居が高すぎる。アプリに頼らずにクロス・プラットフォームにする方法は何かないか?

ふと考えてみると、どんな携帯にもカメラとメール機能はついています。家族写真を写メールすることは誰もがすでに経験している行為。それにメールはインターネットとブラウザさえあれば、携帯はもちろんどのパソコンでも行えます。よしメールを使おう!

次に使い勝手。送られた写真はアプリ側で勝手に整理整頓するように。最低限の操作で欲しいものが提供されるブラックボックスは、デジタルプロダクトをデザインする上での定石です。(僕は勝手にこれを ”Least Input, Most Output”のルール と呼んでいます。)

また昔ながらのアルバムに慣れ親しんだ世代のために、Look & Feel はアルバムを踏襲しよう。(ちなみにプロジェクトをはじめたのは、現実世界での質感を再現するスキューモフィックデザインが全盛時代、今や慣れ親しんだフラットデザインが流行する前のできことです。当初は使い勝手に関してあーだこーだ言われたフラットデザインがここまで浸透しました。使い勝手に関しては、結局のところ「慣れ」が一番ですよね。)

またアルバムに特有の日付や一言メモ。これもメールの本文からひっぱってこよう。スマートフォンで撮影した写真はGPS情報が埋め込まれています。なので撮影場所も取り出そう。その写真がどこで撮られたのかわかれば想像も膨らむし、興味があればストリートビュー見ることも可能です。

川島家の家族アルバム(筆者が生後60日)。こういう何気ないメモが、思い出を呼び起こす。

大枠のビジョンは固まりました。ただここからが難所です。じゃあ実際にどうやってこれを作り上げるか。僕はデザインやマネージメントが本職ですので、アプリを実装するにはエンジアリングの助けが必要です。プログラマーは西海岸では引く手あまた。ましてや予算ゼロのプロジェクトを誰が引き受けてくれるでしょうか。むむむー。

ちょうど同じ頃に日本の大学時代からのエンジニアの友人たちが相次いで西海岸に引っ越してきました。Twitter社の初期からのメンバーの丹羽善将くんに、TakramやTHAといった一目を置かれるスタジオで活躍した岩井貴史くん。エンジニアとしても超優秀な上に、二人ともデザイン思考を携えています。しかも同窓生にて、かつ海外に出た者同志。海外で生活をしていると海外特有のいろいろな苦労を経験し、自然と仲間意識が芽生えます。そこにあてつけ、藁にもしがみつく思いでアイデアとその背景を熱く語り、一緒にプロジェクトの仲間に入ってもらいました。

ぽんこつの飛行機の両翼にジェットエンジンが備わりました。今考えても本当にラッキーだし、こんなお金にもならない無謀で個人的なプロジェクトによくも参加してくれたと、二人の懐の広さに感謝しています。彼らには足を向けて寝られません。

こうしてプロジェクトが動き出しました。とはいえ皆それぞれ本業や生活をかかえています。深夜や週末を利用して少しずつ、けれどこつこつと打ち合わせを重ね、アプリをつくっていきました。

いかんせん限られた時間での作業です。場合によっては数ヶ月の間プロジェクトを進めることができない時期もありました。やっと進み始めたと思ったらRetina Displayが発表され、それに対応したと思ったら、今度は新しいiOSが発表され。前述のフラットデザインの発表もありました。これによってHuman Interface Guildlineも大幅に変更されました。デザイン、特にUI/UXは時代とともに変化する水ものです。まさに3歩進んでは2歩下がる。外部要因に対応するのに時間がとられ、何度も進行が停滞しました。

プロジェクトが頓挫しかけるたびに、なんとしてもカタチにしなければと自らに檄を入れました。エースの二人を巻き込んだ本人として、それが最低限の責任です。幸いにもチームの皆は本当に辛抱強く、今思えば逆に彼らが僕を支えてくれたのだと思います。

「同じアイデアを思いつくのは一万人。それを実際に実行するのは百人。そして最後までやり遂げるのは、ただ一人。」

昔どこかで聞いた例えですが、本当にそうだと思います。

よく「発想は才能だ」なんて言いますが、逆に言えばそれ以外の過程、つまり実際に行動を起こし、そして最後までやり遂げる「粘り強さ」。これを身につければ、それはとても強い武器になるのではないでしょうか。そして先天的な才能と違い「粘り強さ」は確実に身につけられます。


Real Artists Ship.
– Steve Jobs
「真のアーティストはシップする。 」
ースティーブ・ジョブス
(Ship: 出荷する = 作品を世に送り出すまで完遂する)

くじけて諦めそうになるたびに思い出す言葉です。

いくら時間を費やそうが、形にしなければそれはただの浪費となりかねません。プロセスから学ぶことも大事です。ただ設定したゴールに達成することも同じく大事です。ましてやひとたび人を巻き込んでしまったら(汗)。

次ページ 「こうしてお義母さんからのリクエストから時が経つこと数年。」へ続く

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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