・西友 マーケティング本部担当 執行役員 シニア・バイスプレジデント 富永朋信氏
・TEMPUR SEALY Japan ltd. マーケティング&デジタル本部 本部長 尾澤恭子氏
・吉野家 企画本部宣伝企画・広報部長 田中安人氏
2015年11月に設立1周年を迎え、昨年末には記念の「Year-end Networking Day記念パーティー」も開催し、ますます盛り上がるJAPAN CMO CLUB。2016年の活動は、1月21日に実施した第11回目となるCMO CLUB研究会からスタートした。
今回の参加企業は、西友、テンピュール、吉野家で、ジャンルの異なる3社による議論となった。100年以上の歴史を誇り、看板商品「牛丼」に熱狂的な支持を受け続けている吉野家、ウォルマート傘下となりEvery Day Low Priceへの変革を遂げた西友、世界中で高品質なマットレスやピローを提供し、支持を集めるテンピュール。いずれも確立したブランドイメージを持ち、業界を牽引する立場にある3ブランドだ。
先駆者やリードする企業はどんな課題を持ち、どのように解決しようとしているのか。
最強のメディア「店舗」での体験がブランドへの共感を育てる
西友の富永氏は、自身が小売以外の業態でもマーケティングに携わってきた経験を踏まえ「店舗は顧客接点において、最強のメディア」と話した。そこで小売業におけるカスタマージャーニーでは、店舗でのコミュニケーションの最適化が競争力を大きく左右する要素となるという。
店舗で魅力的なブランド体験を提供できれば、ブランドへの共感を得ることができる。しかし小売業にも当然、コモディティ化の波は押し寄せている。そもそも、西友に足を運びたくなる理由づくりから含めた、ジャーニー理解が必要とされている。
そこで同社は、スーパーマーケットおよびディスカウントストアに対して顧客が期待する価値を抽出し、自社が具備すべき要件を言語化した。すなわち西友へ行けば確実に欲しい物があるという「確実感」、低価格ゆえに価格を気にせず購入できる「抱擁感」、西友でしかないものがあるという「充実感」、買い物することで楽しさを感じ、さらなる購入へとつながる「高揚感」という4つをキーワードに、カスタマージャーニーのあらゆる接点で、この価値を感じてもらうための取り組みを進めている。
消費者と良いコミュニケーションをとることができる「良い店舗」とは何かについて、富永氏は直感的に買い物ができることを例とした。店内にある商品の売り場を示す案内板がなくても、欲しい物を直感的に見つけることができる店舗。そのためには、現在の店舗設計が正しいのかを常に検証しなければならず、また消費者がその店に何を求めて来るかは各店舗によっても異なるため、汲み取る消費者の意図に整合性が必要となる。
この“意図”を理解するため、富永氏らはレシートの全数分析を行い、買い物意図を類型化。そのパターンは約20種類程度に集約されることがわかったという。このパターンを基にした、マーケティングを実現できれば、顧客からすれば自分に非常によりそったお店づくりに感じられる対応も可能になるかもしれないという。
JAPAN CMO CLUBの加藤希尊氏からは、最近多くのスーパーマーケットが取り組む、ネットスーパーについて問いかけがあった。その問いとは「ネットスーパーが顧客体験を向上させる店舗づくりに貢献しているのか」というネットスーパーのオペレーションが店舗スタッフの負担になっている面もあり、実際の運用に関しては、解決すべき問題もある。
しかしながら、オンラインでの行動も分析できれば、さらなる顧客の“意図”の理解につながる。顧客一人ひとりにとって魅力的なブランド体験をつくりだしていく上では、ネットスーパーという新しいチャネルも、取り込んでいく必要がありそうだ。
デジタルを活用し、接客の質を向上させる
西友と同様、店舗という消費者と直接触れ合う場を持つ吉野家も店舗での体験を重視している。田中氏は「牛丼で培った100年をただ壊すのではなく、次の100年につなげるための取捨選択が必要」だと話した。その100年の歴史の礎となった築地一号店では、店長が常連客の注文を全て覚えていて、来店と同時にそのメニューを提供していたというエピソードを紹介。
特別な店舗体験を提供することの必要性を指摘「これこそが残すべき吉野家のDNA」と話した。田中氏は、サービスを提供するのは、あくまで人であるとしながら、デジタル技術を活用すれば、築地店のようなサービスを全店で実行できる可能性もあるのではないかと話した。人を補完する存在としてデジタル技術があるという立場をとった。
不十分なPR活動が誤ったイメージを植え付ける
テンピュールでは、消費者が情報と接する経路が複雑化し、行動も一定の枠組みに収まっていないことを踏まえ、消費者の行動を蜘蛛の巣型でとらえるカスタマージャーニーを描いている。その各接点でとらえた消費者に対し「いかに統一的なブランド体験を提供できるかが鍵になる」と尾澤氏は話した。
テンピュールが統一的なブランド体験を提供するためには、店頭で消費者と接する販売員や販売店がまずブランドを理解しファンになってもらう必要がある。消費者と接する販売員を最大のメディアとして、コミュニケーションを補完するBtoBtoCのビジネスならではの接点づくりの工夫が見えた。
ブランドの理解促進に関して加藤氏は、マットレスの「低反発」と「高反発」の違いや効果をクリアにすることは、消費者に響くメッセージになるのでは、という提案があった。これに対して尾澤氏は、実は反発性を訴求しはじめたのは競合だという事実を指摘。同社がこれまで正しいブランド理解への取り組みが十分でなかったために、マーケット調査でもブランドを知ったきっかけとして打っていないテレビ広告が理由にあがるのだという。尾澤氏は「消費者が何をテンピュールだと思っているのか、調査が必要」だと話し、今後は今の固定化されたイメージを修正するための正しいPRの必要性を感じているという。
ブランドが提供できる価値の根幹は変わらずとも、時代に合わせた新しい見せ方は必要だ。
吉野家も、これまでの100年を支えた「うまい、やすい、はやい」という「ワンコインで満腹」というイメージではない、新たな軸の発見を目指している。その一つとして取り組んでいるのが健康という軸であり、「ワンコインで健康」への転換を図っている途上という。時代に合わせた新しい価値提案の必要性。一方で、消費者の中でイメージができあがっている強いブランドだからこその課題感で2社には共通点があった。
JAPAN CMO CLUB
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