「やすさ」の価値を補完し、来店のきっかけに
ブランドのイメージが確立されていればされているほど、その固定化されたイメージを変えていくことは難しい。今回の参加企業はいずれも定着したイメージがあり、それを維持しながら、時代に合わせて変化させていく必要性を感じている面もあり、固定化されたイメージの転換は関心の高いテーマとなった。
ウォルマート傘下の西友は、これまでの日本のスーパーマーケットが提唱してきた「特売型」モデルではなく、Every Day Low Priceのビジネスモデルをとっている。このモデルは一方で、消費者から「安かろう悪かろう」というイメージを持たれる懸念も感じているという。尾澤氏からは安さだけではなく来店に楽しみを感じさせるような施策、フリーペーパーなどで「それ欲しさに来店する」という目的を付与できれば新たなイメージづくりと顧客層の拡大ができるのではないかという提案があった。
また、田中氏からは、安くて良い物を選んで来る目利きを生かした高級品の売り場づくりは、逆転の発想でアピールできるのではと指摘し「ロープライス競争は同質化の促進。その脱却という意味では自分自身の問題でもある」と話した。
西友は、人気が出た輸入品の柔軟剤を日本へ持ってきた実績や、ワインやチョコレートなど良い物を安く提供しているが、その目利きの実力をうまく生かせていない面がある。富永氏も店舗づくりも含め、光る逸品として紹介する方法はあるかもしれないと話した。また、安さの追求に関しては、イメージが固定化することが悪いわけではなく、その安さの価値を消費者と共有できなければ意味がないと指摘した。
尾澤氏からは吉野家について、顧客の早期囲い込みのために幼少期からの来店を促すファミリー層への訴求などが提案された。田中氏もブランドスイッチの重要性を感じ、地域に密着した店舗の構想があると応じた。一方で、現状の吉野家の来店客は男女比で8対2となっており、競合企業がテレビCMなどでうまくファミリー向けに訴求している点を指摘し、自社の課題としていた。
リアルユーザーのアンバサダー化
田中氏からは、テンピュールのブランド理解促進やユーザー拡大のためにアスリートの課題解消用プロモーションが提案された。ラガーマンだった自身の経験から、激しいスポーツをするアスリートにとって睡眠は重要。アンバサダーとして起用することは口コミにもつながるのではと指摘した。尾澤氏は、リアルなユーザーがアンバサダーとなって拡散することについては同意したものの、競合がすでにアスリートの広告起用をはじめており、コスト面での難しさを口にした。
尾澤氏はアスリートではなく、ビジネスの最前線で働く人々をアスリートに見立ててアンバサダーとする構想はあると話した。ベンチャー企業のエグゼクティブにはスポーツを楽しむ人も多く、ビジネス、スポーツの両面でチャンスが広がる。
加藤氏はここで、CMO CLUBのメンバーでもあるVAIOがプロフェッショナルユーザーを起点に、その影響力を利用してファンを獲得した例を紹介し、このモデルを軸にしたブランドコラボにも可能性があるのではと提案した。業種、業態やあつかう商品が異なっていても、ユーザーやターゲットに近いものがあれば思いがけないコラボレーションが生まれる。CMO CLUBにはそうしたコラボレーションのハブになる役割もあることに触れた。
もし「○○」が無くなったら? 損失のインパクトを利用する
富永氏からは「もしもテンピュールが無くなったら」という逆転発想の訴求もあるのでは、と話した。同じ量の利益と損失があれば、損失のインパクトの方が大きく感じる、その意識の差を利用すればチャンスがある。尾澤氏も「なくなったときにその重要性を実感することはある」と同意し、製品の良さだけを訴求では伝えられない価値を訴求できるかもしれないと話した。また、現状は商品があることを前提に選択が行われるので、コモディティ化した市場では価格競争になる。価格は下がっても、品質は下げられないという不均衡の解消にもヒントとなるのではと指摘した。
さらに富永氏は同じく店舗を持つ立場から難しいことはわかっていると前置きをしつつ、田中氏へ店舗体験で驚きを与える方法を提案した。牛丼そのものには大幅に変える余地がないならば、「なんとなく」入店した顧客にその店を自発的に選んだことを意識させる施策が効果的なのではないか。これに対し田中氏は、吉野家ではマニュアルの上に個人の裁量を加える試みを実施していると話した。
しかし、過剰なサービスはクレームにつながることもあり、「適度なサービス」の線引きがどこにあるのかを判断する難しさも口にした。同様に、クーポン配信などのデジタル施策も進めているが、これにも一定のクレームがあり、「今年中にはデジタル施策から感じるメリットの方を大きくできるようにしたい」と話した。
やっとCMOの時代が来た!
今回の参加企業はともに確立したブランドを持ち、その定着したイメージを変えることの難しさを共通して課題としていた。また、3社ともにその解決の鍵を直接顧客と触れ合うことができる店頭に見いだしていたことも興味深い点だろう。
研究会での議論を経て、田中氏は「5年前からCMOを名乗ってきたが、こうしてマーケター同士で話す機会はなかった。やっとCMOの時代が来たと感じた」と、マーケターが集まる機会の貴重さを話した。尾澤氏も「業界は違えど、悩みの本質に共通点があり、やはり人が大事だと確認できた」と発見を口にした。マーケターは社内では特殊な位置づけと話した富永氏は、研究会での議論を「今日のような経験があると、マーケティングは良いものだと確認でき、これからも会社を良い方向へ変えていこうという意欲を得られる」と前向きなエネルギーを得るきっかけにしていた。
3名のマーケターの感想を受けて加藤氏は「富永さんのように感じてもらえてうれしい。日本のマーケターの方たちは、横のつながりが薄く、孤独感を感じている人が多い。CLUBには皆さんのほかにも、たくさんの同士がいます。横のつながりの中で、もっと新しいアイデアも生まれてくるはず」と話した。
JAPAN CMO CLUB
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