(季刊『100万社のマーケティング』2016年3月号より)
【1】最高のステージは、どの中小企業の手に!?
Intuit QuickBooks
米国で、中小企業向けでは 90%近いシェアを誇ると言われる、会計ソフト最大手Intuit(イントゥイット社)。今回のスーパーボウルでは、30秒CMを出稿した。
しかしCMの内容は、イントゥイットの商品・サービスを直接的に紹介する ものではない。同社が会計ソフト「QuickBooks」のブランド名で実施しているスモールビジネスコンテスト「Small Business Big Game」で優勝した中小企業に、そのCM枠で広告をする権利を与えた。
昨年に続き2度目の開催となる。コンテスト参加企業は、中小企業オーナー向けのソーシャルネットワーキングサービス「OWN IT!」に登録し、自らのビジネスへの情熱や、社会に対する提供価値を伝える投稿を行う。その投稿を見て、他のユーザーは気に入った企業に投票し、得票数が最も多かった企業がCM放映権を獲得できる。
今回の優勝企業は、味が濃くてカフェインも多い“世界最強”のコーヒーを製造販売する「N.Y.’s Death Wish Coffee Company」。ターゲットを中小企業に絞った上で、見込み顧客へのリーチや、既存顧客との関係強化を図った好例と言える。
【2】ネットがショッピングに起こした変化を、ローンにも。
Quicken Loans「What We Were Thinking」
住宅ローンのレンダーであるQuicken Loansが2015年11月にローンチした、新しい住宅ローンサービス「Rocket Mortgage」を訴求するCM。
サービスのタグライン「Push Button, Get Mortgage.」であることからもわかるように、オンラインだけで住宅ローンを申し込むことができる同サービスの利便性を訴求する内容となっている。
インターネットが音楽や靴、航空券などの購入に起こした変化を、住宅ローンにも起こしたら? より簡単に住宅ローンを組めるようになったら、もっと多くの人が家を買うようになるのでは?――「What We Were Thinking.(私たちが考えていたこと)」と題し、スピーディーかつ簡単にローンを組める同サービスの開発経緯と狙いを説明する。
視聴者の中には、このCMにネガティブな印象を持った人もいた様子。Twitterには、「この広告は、2008年の金融危機(リーマン・ショック)、そしてそれが引き金となって発生した『住宅 バブル崩壊』の時と同じような経済環境を誘発しかねないのでは」といったコメントも見られた。
【3】有名俳優を起用した、ド直球の広告
Intuit TurboTax「Never a Sellout」
事例8に続き、会計ソフト最大手・イントゥイット社のCM。確定申告用の用紙を無料(有料版あり)で作成できるソフト「TurboTax」を訴求するものだ。
起用されたのは、『羊たちの沈黙』のレクター博士で一躍有名になったアントニー・ホプキンス。CMでは、彼がインタビューを受ける様子が描かれている。「私は、何かモノを売るために、自分の名前を貶めるつもりは一切ない」と自信満々に語るホプキンス。
しかし、その手には「TurboTax」のブランドロゴが入ったマグカップが握られ、足下を見ると同じロゴ入りのスリッパを履いている。さらには「TurboTax」の説明まで始めてしまう始末。
困惑したインタビュアーが「あなたは、宣伝に魂を売らないのではないのですか?」と聞き直すと、「だって無料だからね。『売って』はいないだろう?」とあっけらかんと答える。
そして、ホプキンスが「TurboTax.com!」と呼びかけると、「TurboTax」のロゴ入りウェアを着た愛犬が彼の膝に飛び乗る。今どき珍しいほどの“ド直球広告”だ。