「PRらしさ」にこだわり、日本代表に
本田:お二人は息ぴったりの理想のコンビネーションで、昨年の日本代表戦の企画は、審査員をあっと言わせてたよね。「#SaveKidsLives: Stop Drinking and Driving」(飲酒運転撲滅)という課題に対して、フェラーリやメルセデスといった高級車がたったの2ドルで買える中古車のカーセールイベント「ABSURD CAR SALE」という企画をプレゼンされた時は、私も「その手があったか!」と感心しました。
村石:正直、企画を提出した時点で「これはさすがにいけるだろ」と思っていました(笑)。
石川:自分が納得できる企画になっているかどうかが、ひとつの基準ですよね。それが難しいんですけど(笑)。
本田:どんな企画だったか、改めて教えてください。
村石:「ABSURD CAR SALE」は激安のカーセールイベントなのですが、単なるカーセールイベントではありません。「フェラーリが2ドルで買えるよ!」とみんなが注目したところで、セール当日にその安すぎる値段の裏側にある真実を発表します。売られている車はすべて飲酒運転によってスクラップになった事故車で、「2ドル」という値段は実はドライバーが事故を起こす前に飲んだアルコールの値段だった、というオチになっているのです。
石川:激安の値段の裏にある、凄惨な真実が語られた後、カーセールイベントは募金イベントへと変わります。人の命を奪った車の金額を、今度は、未来の犠牲者を救うための金額として、反飲酒運転活動支援のために募金ができるようになる、という企画です。馬鹿げた(ABSURD)金額は、悲惨な(ABSURD)金額だった、というダブルミーニングですね。
本田:うーん、今聞いても、面白いアイデアだなぁ。プランニングする際に心がけた点はありますか?
村石:一番気をつけたのは、「広告」ではなく、「PR」の企画にみせることです。アイデアが出た段階では、単に「事故車を売るカーセールイベントなんて、なんか話題になりそうやん!」というレベルでした。しかし、事前の勉強会で審査員のみなさんが「ADとPRの違い」について念入りに説明されていたことからも、この部門で勝つには、単に「面白いアイデア」というよりは、より「PRの企画」としてみえるように、アイデアを調整していく必要があると思いました。そこで僕らは、審査委員長の嶋浩一郎さんのカンヌについての対談記事で語られていた、「PRとは、世の中にある事実を〇〇に変えることで世の中に議論を引き起こし、パーセプションや行動を変えるもの」というフォーマットにあわせて自分たちの企画を説明できるようにしました。
石川:この時、出した企画でいうと、「『飲酒運転で事故を起こしたアルコールの値段』を『高級車の値段』に変えることで世の中に議論を巻き起こし、飲酒運転のリスクを伝える。そして、その値段を募金してもらうことで未来の犠牲者を救っていく」というふうに説明できます。ここに当てはめていく時に、企画を単に「事故車を売るセール」から、よりその「値段」にフォーカスしたものにしました。
本田:昨年、審査をしていて、二人の企画は斬新かつシンプルなアイデアがすごく際立っていた。さらに、PRとしてのファクト、話題性、ニュース性も押さえているし、って、なんだかベタ褒めになっちゃったな(笑)。二次審査で「車に興味のない人まで、この話題は広がるか?」と質問したけど、いかにこの企画に口コミの要素があるか、ということをしっかり説明できていたのも好印象だったな。いずれにしても、二人の「日本代表になる」という強い意志がビシビシ伝わってきますね。
カンヌでは3秒で伝わる、シンプルで太い企画が好まれる
本田:いよいよ、カンヌでの本選。残念ながら入賞はならなかったけど、日本予選との違いはどこにあったのかな?
石川:まず、与えられた課題の複雑さです。クライアントはGREENPEACE。「EAT LESS MEAT or EAT NO MEAT」というテーマで、食肉は実は環境に良くない行為なので、よりサステナブルな世界の実現のために食肉生活をやめさせる、というのがゴールでした。
村石:僕たちは、食肉の中でも、今回のターゲットであるヨーロッパで最も多く生産されている豚に注目して、養豚現場の凄惨な現状を伝えることが食肉を止めるきっかけになると考え、豚の餌をメディアにすることにしました。
石川:豚の餌を使って、「君たちは、食べられるために生まれてきたんだよ。ほら、将来の君の姿。ポークミートパスタのレシピ。」という、将来の自分の姿(肉料理のレシピ)が印刷された餌を作って、それを豚自身に食べさせる、というのがコアアイデアです。自分の将来の姿を食べる悲惨な豚の映像が世の中にノイズを起こす。後に、その肉料理のレシピをすべて野菜料理のレシピに変えて書籍化することでネタバレさせる。ターゲットである、自炊傾向にあるロハス層の興味を引くということも考えました。
本田:豚に、レシピという自分の行く末が書かれた餌を食べさせるなんて、とてもシュールなアイデアだよね。審査員の評価はどうでしたか?
村石:アイデアはわりとウケたんです。審査員のなかには爆笑している方もいました。Q&Aもうまくこなせたし、少し期待してしまいました。ただ、結果はブロンズにも引っかからず…。帰りの飛行機でも「反応はよかったのにね」と2人で慰め合う結果になってしまいました。今年の日本代表には、「審査員の笑顔は信じるな」ってことをお伝えしたいです。
石川:僕らは、国内戦では押さえていたはずの「ビヘイビアーチェンジは、パーセプションチェンジの延長線上にある。」というPRのアプローチの順番を間違えたんだと思います。というか、越えるべき課題が多すぎた。審査員には、このアイデアは食肉をやめるという行為にはつながるかもしれないけれど、なぜそれをすべきなのかという理由が理解されない、というふうに伝わったと思います。クライアントがGREENPEACEである以上、食肉が実は環境に良くない行為である点や、サステナブルな世界を目指すために、という「アンチ食肉活動」の根っこの部分である「WHY」が理解されないと、意味がなかったんです。食肉をやめるべき理由を理解させる、という点と、実際に食肉をやめさせる、という点の2つのハードルを1つのビッグアイデアで超えないとダメだった。
村石:僕は、結果として食肉をやめさせればいいと思ったのですが、そうじゃなかったんですよね。その企画がGREENPEACEに落ちているか、という視点が抜けていました。2つのハードルのバランスをどう取るかが難しくて。時間的にも、そこの議論で多くの時間を費やしてしまい、「24時までにコアアイデアを出す」という、ルーティンも守れていませんでした。
本田:ちょっと考えすぎたかもしれないね。ゴールドを獲ったスウェーデンチームのアイデアは、その動物を育てるのにどれだけの野菜を消費するかを一目で表す「THE VEGETABLE ZOO」をつくる、というものでした。その動物園では、野菜で動物が形づくられていて、非常にシンプルな企画という印象です。GREENPEACEがその施策をやる「意味」もわかりやすいしね。ヤングカンヌは、合議制の要素は少なくて、あらかじめ決められた複数項目の合計点で授賞を決める採点制の側面が高いので、採点項目の要素をすべて満たしてないと、入賞は狙いにくいのかもしれないですね。
石川:3秒で伝わるような、課題とアイデアの距離が近い、シンプルで太い企画が好まれるような気がしました。1科目受験ではないので、ひとつの項目だけ高得点を獲っても、他の項目を満たしてなければ、トータルでの評価が低くなってしまうので。そこは丁寧に対応しないとダメですね。