鈴木健×田川欣哉×佐渡島庸平「イノベーションが加速する時代にコンテンツのつくり方はどう変わる?」【前編】

不明瞭な仕事をする人が次の時代をつくる

佐渡島:自分でサービスを立ち上げるに当たり、なぜ鈴木さんは「ニュース」を選んだんですか?

鈴木:最初考えたのは、価値が伝播する貨幣システムでした。アイデアのリミックスで新しいコンテンツが生まれるように、価値が投資のように伝播していく貨幣システムです。やがて、これは情報の流通にも使えると考えるようになったんです。

2004年ごろに出てきたSNSにインスパイアされ、最初はソーシャルネットワーク上を情報が伝播していくRRSリーダー「ソーシャルトラストネットワーク」を立ち上げました。自分と共感性の高い人が興味を持ったものが推薦されるサービスです。今考えると、自動でできるTwitterのリツイートみたいなものだったんですが、ちょっと早過ぎました。

その後もずっとニュースなどのレコメンドサービスを考え続けて、やがてエンジニアの浜本に出会い、SmartNewsを始めることになりました。

佐渡島:今日は「コンテンツ」がお題ですが、田川さんの会社takramではどんなものをつくっているか教えてもらえますか?

田川:鈴木くんは0と1をなめらかにつなぐ中間にこそリッチな要素がある、という話をしましたが、takramでは「デザイン」と「エンジニア」という職種の中間にある「デザインエンジニア」という職種を提唱しています。一般にデザイナーとエンジニアではスキルセットもキャリアパスも交わらないのですが、その両方を行ったり来たりする人材を育成しながら、新しいビジネス、サービス、製品を、企業や研究者、ベンチャーと連動しながら生み出しています。直近のプロジェクトでは、日本政府とビッグデータビジュアライゼーションプラットフォーム「RESAS」のプロトタイプ開発をしたり、NHKの科学教育番組「ミミクリーズ」のアートディレクションをしたりしています。ハードウェアからソフトウェア・サービスまでいろいろなタイプのプロジェクトがあります。

最近は「デザインエンジニア」の人材モデルをさらに拡張させ、「BTC型人材」の育成をテーマに掲げています。ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)の3つの要素をハンドリングできる個人やスモールチームで、社会に新しいことを起こしていきたいんです。

佐渡島:takramのような会社は他にあまり例がないですよね。

田川:僕らの大先輩に当たる会社に「IDEO」がありますが、IDEOは様々な分野のスペシャリストをチームに組み込む考え方です。僕らの特徴は、個人の中に複数の分野を取り込んでしまった人たちが、さらに協業したら何が起こるのかというアプローチです。

佐渡島:鈴木さんは、SmartNewsはなぜここまで成長できたと思いますか?

鈴木:タイミングのよさは絶対にあります。予想の10倍近いスピードで普及して、当時僕ら自身が「え!?」と驚いたくらいですから。振り返って考えれば、考えていた以上に、みんなニュースが読みたかったんじゃないでしょうか。地下鉄で電波が入らなかったころは、多くの人が移動中にスマートフォンでゲームをしていましたよね。それを見て、本当はニュースが読みたいんじゃないかと思ったんです。それがオフラインでも読める「スマートモード」の開発につながりました。スマートモードは人気に火をつけた要因のひとつだと思います。

佐渡島:スマートフォンの次のデバイスが出てきたら、と考えることはありますか?

鈴木:スマートフォンに代わるプラットフォームが出てくる可能性は当然あります。新しいデバイスやメディアが生まれるスピードはどんどん速くなっています。昔はひとつのメディアができると数十年は持ちました。テレビだって日本では70年経たないくらいでしょう? 意外と新しいメディアなんです。パソコンはさらに転化が早まって15年くらいで入れ替わってしまった。スマートフォンが持つのは10年くらいかもしれない。こういう時代はメディアとコンテンツの両方に関わらないと面白いことはできません。おそらく僕らが生きている間はずっと、50年か100年くらい、イノベーションが加速していくんじゃないでしょうか。世界史上類を見ない時代です。次々と新しいことが起こるから、Aの技術、Bの技術と成熟させていく時間の余裕もない。こういう時はマルチスキルが要求されます。

僕が考えるマルチスキルは、AとBの両方の技術を持っている人ではありません。AともBとも名前がつけられていない何かを共有しているんですよ。A&Bというコンセプトを使う人たちは、たいていAにもBにもアイデンティティーがなくて、どちらでもない別の何かなんです。言葉にすると難しくなっちゃうんですけど。

田川:takramが言う「デザインエンジニア」にも、デザイン&エンジニアではなく、デザイン業界にもエンジニア業界にも縛られないエリアを見つけたいという思いが込められています。鈴木くんが言っているように、当分の間はイノベーションが加速する時代が続くだろうと感じます。僕は今年からイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のイノベーション・デザイン・エンジニアリングで客員教授をしています。この学科では「今、実践的な教育に求められているのは、私たちがはっきりと定義できない、もしくは不明瞭な状態にある仕事を担当するような人々である」というピーター・ドラッカーの言葉を教育の哲学として引用しています。例えば「グラフィックデザイナーを育てる」と言った瞬間に、過去に定義された枠内に人を収めてしまうことになりかねない。そうではなく、これから仕事が定義されるような、新たなフレームワークをつくれる人をどう育てるかという話なんです。

電通報でも記事を掲載中

<後編に続きます。>


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鈴木健(すずき・けん)

スマートニュース株式会社 代表取締役会長 共同CEO。1998年慶応義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。情報処理推進機構において、伝播投資貨幣PICSYが未踏ソフトウェア創造事業に採択、天才プログラマーに認定。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房、2013年)。東京財団研究員、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員など歴任し、現在、東京大学特任研究員。2006年4月 株式会社サルガッソー設立、代表取締役社長就任。2012年6月スマートニュース株式会社(創業時社名:株式会社ゴクロ)に共同創業者として参画、取締役に就任。2014年6月 代表取締役会長共同CEO就任。SmartNews米国版ローンチのため米国法人SmartNews International. Inc.を設立、Presidentに就任し、2014年10月 日米のニュースを同時に楽しめるSmartNews 2.0を日米同時リリース。海外メディアとの連携を進めながら、世界中の良質な情報をなめらかに発信中。

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)

株式会社コルク代表取締役社長。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエーターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『ダムの日』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。

田川欣哉(たがわ・きんや)

デザインエンジニア/takram代表/RCA客員教授。ハードウエア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「NS4」のUIデザイン、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム-」のプロトタイピング、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。日本語入力機器「tagtype」はニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定されている。東京大学工学部卒業。英国Royal College of Art修了。LEADING EDGE DESIGNを経て現職。Royal College of Art客員教授。

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