スタバはないけど、スナバはある。地域PRに見る、逆転のマーケィング戦略

ゆるキャラ頼みは危険!?

佐賀市シティプロモーションの主役として白羽の矢が立った、ワラスボ。

ここからは私自身が関わった地域プロモーションからいくつかの事例をお話ししたい。2013年の夏、佐賀市役所の職員である元同僚から連絡があった。市をPRするために「ゆるキャラ」をつくりたいのだと言う。しかし私は「ゆるキャラ=市のPR」という考えに反対した。すでに全国で1500体以上も存在している「ゆるキャラ」の中に、仲間入りすることで、どこまでインパクトを与えられるのか。巨額のお金をつぎ込み、話題になるようなことをさせてメディアで取り上げられる、行政としてそんな体力はない。

そこで佐賀市に赴き市長を含め職員たちにシティプロモーションのさまざまな可能性と3つのポイントについて講演をした。「町おこしとは町興し」住民やそこに携わる人々が楽しんで継続していくものにする。「ヨソ者、バカ者、ワカ者」この3者の発想と行動力が新しい話題をつくっていく。そして架空の話ではなく「地域の特性・事実」を基にしたプロモーションで人を現地へ誘う、受け皿を用意する。そうして生まれたのが「WRSB」キャンペーンである。

干物の売上が1 年で10倍に

佐賀市に隣接する有明海のみに生息するワラスボというハゼ科の魚がいる。泥の中にいることから目は退化し歯はむき出し、体の色素は抜け、まさにエイリアンのような気色の悪い姿をしている。このワラスボ、地元では刺身や干物、粉末などにして食べられている。私は初めて佐賀市を訪れたときこの生物の存在に衝撃を受け、プロモーションの主役になると確信した。

市の職員たちとワラスボについて話したところ「こんな気持ち悪い生物が話題になるのか」「佐賀市にはもっと素敵な観光地があるのに」といった疑問の声も出た。しかし今までほとんど話題にされてこなかった佐賀市のイメージを大きく変えるためには強さと意外性が必要であると訴え、企画に踏み切った。ワラスボを地球外生命体「WRSB(WARASUBOの略)」に見立てたホラー映画のトレーラーのようなムービーをつくり、動画サイトにアップした。市からのPRもあって多くのメディアで取り上げられ話題を呼んだ。とある記事では「ゆるキャラで売る時代は終わった!? 佐賀市のPR動画が衝撃的すぎる!!」と紹介され昨今のご当地動画戦争の幕開けを告げていた。動画だけでなく特設サイトも制作しワラスボの生態や漁の仕方、そして地元で食べられるお店を紹介。ワラスボを食べに佐賀市へと足を運ぶ人は増え、お土産用のワラスボの干物の売上はこの1 年間で10 倍に伸びた。

こうした市のPR に民間のお店や企業が興味を示し、さまざまなWRSB グッズが生まれている。「WRSBの有田焼小物」「WRSBグミ(コーラ味)そして大手ゲームメーカーSEGAがエイリアンを主役にしたゲームのプロモーションでWRSBの起用を切望「SEGAとSAGA」の異色のコラボレーションも実現した。動画・Webサイトの総制作費は250万円程度、露出メディアの広告換算費はおよそ2億円、経済効果も出ている。

地元に生息する生物を地球外生命体「WRSB」と位置づけ、さまざまなコンテンツを展開。

見えない!? 世界遺産

世界遺産を「見ることができない」逆境を、隠すことなく前面に打ち出した。

もう一つ佐賀市のプロモーション。昨年、佐賀市に世界遺産が誕生した。「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」。これは、山口・福岡・佐賀・長崎・熊本・鹿児島・岩手・静岡の8県に点在する1850年代から1910年(幕末~明治時代)までに急速な発展を遂げた上記に関する文化遺産で、稼働遺産を含む世界遺産は日本で初となるもの。長崎県の軍艦島はその最たる場所であるが、これらの一つに佐賀市の「三重津海軍所跡」がある。市や県は数年前よりこの世界遺産登録を望み、地元を中心としてPR 活動をしており歓喜に包まれたのは言うまでもない。

しかしこの「三重津海軍所跡」には決定的な弱点があった。それは「見えない」ということ。数年前に地中より発見され世界遺産登録をするために現状維持を余儀なくされ、また地中に埋め戻した。現地には原っぱが広がっているだけなのである。隣接する記念館には当時の模型がディスプレイされていたり、VRスコープを覗いて当時のCG映像を見られるというアトラクションはあるが、実際の世界遺産は見ることができない。佐賀市と私はこのどうしようもない事実を隠すのではなく、逆に前に出していこうと決めた。「みえつ」なのに「みえない」という言葉遊びを使って「みえない世界遺産、みえつ」というプロモーション動画を制作した。動画の内容は世界遺産の響きに足を運んできた観光客が広がる原っぱの上で「見えないじゃないか」と怒りだすものや、地底人や透視能力者が出てきて「この下に確かにある」と訴える自虐的なもの。しかし「みえない世界遺産」というユニークな事実が多くのメディアに取り上げられ、その事実を一目見ようと観光客が後を絶たない。まさに逆転の発想から生まれた成果である。

次ページ 「逆転発想のルーツは夕張市」へ続く


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