石焼き芋屋からカメラマン、プログラマーそしてECDへのキャリアアップ。AKQAロンドンのナカデ・マサヤさんに聞いた。

英語と言葉の壁について

川島:言葉について聞かせてください。長く英語圏で暮らしていれば、さすがに日常会話というか、普通に英語で生活する分の問題は無くなってきます。でもある程度大人になってから学んだ言語では、ネイティブスピーカーとの超えられない壁がどうしてもあると僕は実感しています。ましてやECDのようなマネージメントの立場でしたら、何を話すかだけではなくて、「なぜ」「何を」「どう」話すか。そういったコミュニケーション能力がすごく重要だと思います。その辺りはどうお考えですか?

ナカデ:そうだね、そうかもしれないけど僕はあまり気にしすぎてはないかな。例えば日本人のコピーライターが、いきなりこっちで現地の言葉を使ってコピーを考えるというのはやはり難しいかもしれないし、相当時間がかかると思う。でも僕はビジュアルだったから入りやすかった。

川島:僕も全く同じです。

ナカデ:でも次に問題になるのがビジュアル専門から、どうやってコンセプトやマネージメント、リーダー側に移っていくことだよね。そこらへんのトランジションは俺は随分時間がかかった。最初のプログラミングやデザインで勝負していたころは良かったけど、そこからアイデアで認められるようになるまでは時間がかかった。でも俺の場合は言葉だけでは無くて、どれだけ一生懸命仕事をしているかとか、どれだけアワードを受賞したかとか、そういうので信頼を勝ち取っていった。年に一回のパフォーマンス・レビューではやっぱり言いたいことは言ったりね。家族もいるし、戦うところは戦わないといけない。

会社なんて結局一つの社会だから、自分の仕事をしっかりとアピールできる部分があれば、それに伴って自分のことを信頼してくれる人が増えてくる。すると自分の発言力も上がってくる。もちろん時間はかかるけど、英語が多少拙くたって、日本人でも絶対にできる。

そりゃあ英語できっちりプレゼンテーションができて、魅力があって才能のある若い子が来ると、俺ってどうしてこんなに時間がかかったんだろうなんて思ったりはするけどね(笑)。

英語が出来ないことが、あまり気にならなくなってくる時期って無かった?8年ぐらいしてからかな。自分がこっちの世界では背が低い存在ってことも忘れたし、英語がボロボロってことも忘れたし、でも周りもそれでOKみたいな風になっていった。

川島:確かに、自分の完璧じゃないところを認めて、そしてそれを受け入れるのは大事ですよね。英語にしても、間違いを人前でしてしまうことを嫌う傾向が僕ら日本人にはあって、それが行動を萎縮させてしまってることがあると思います。

ナカデ:川島君は英語上達してると思う?

川島:12年もアメリカに住んでいるので、日常生活で英語で困るってことはさすがにないです。ただこれからは単語力を増やすとかそいうことではなくて、どうやって説得力のあるコミュニケーションを取れるように学んでいくかは常に思っています。でもそれって日本語でも同じですし、英語だからってことではないのかもしれません。

ナカデ:そうだよね。「考え方」だよね。それはすごく大事だよね。

現地に溶け込む

川島:僕は日本を離れてから、否応なしに自分のルーツについて考えさせられることが多くなりました。マサヤさんはアイデンティティとか、日本人であることについて考えを巡らされるようなことはありますか?

ナカデ:昔はすごく考えた。それこそ奥さんと出会ったころなんかは特に。ロンドンは金曜日なんか3時頃には仕事を終えてパブにみんなで飲みに行くんだけど、そういう時にすぐに日本を基準に話しちゃうだよね。「日本だったらこうだよ」みたいに。そうやってすぐに自分の世界につなげようとしちゃってて。でもしばらくして気づいたんだけど、みんなそんなの興味ないんだよね。うっとおしがられるというか。それよりもお互いの中間地点の内容を話すようになっていって、だんだん自然な会話ができるようになっていった。

海外に住んで最初の数年で、みんなそこを通っていくよね。そこをうまく通った人は現地に溶け込んでいく。未だに俺だって下手だけどね(笑)

あとは逆に俺みたいな全然違うバックグラウンドの人がプレゼンに入っていくと、ミステリアスに見えたり、何かあっても許されちゃう部分もあるし、そういうプラスの部分もあると思う。

川島:僕もアメリカでは自分が「ガイジン」の部分を楽しんでる感はあります。

ナカデ:そうそう、美味しいスポットだよね。

川島:日本人としての使命感みたいなものはありますか?

ナカデ:俺は嫁さんが外国人で、結婚した時に日本の戸籍に彼女が入れなかった。その説明をするのが大変だった。

川島:自分が外国人として海外で生活していると、日本が外国人に対しての対応が欧米のそれと比べていかに遅れているかを痛感します。

ナカデ:そうそう。それで日本ではそういうことに対して、現実的な人権問題として戦っている人がいる。俺も実際に経験しているし、そこの痛みがわかるよね。見てみないふりをすることもできるけど、それはどうなんだろうって。何らかのサポートをするべきじゃないのか、そういうことはよく考えるよね。

川島:いろいろな偏見や差別は、憎悪などではなくて、むしろ無知からくるものが多いんじゃないかと、海外、とりわけリベラルなサンフランシスコに長く住んで思いました。

次ページ 「今後のキャリア、展望について思うこと」へ続く

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川島 高(アートディレクター)
川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

Facebook: https://www.facebook.com/takashi.kawashima
Twitter: https://twitter.com/kawashima_san

川島 高(アートディレクター)

1981年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2004年に渡米。文化庁が主催する新進芸術家海外研修員として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) にてメディアアート修士課程修了。アーティストとして作家活動を行う傍ら、アートディレクターとしてAKQAなどの広告代理店にて活動。日本人として初めてGoogleのクリエイティブラボに参画。サンフランシスコ在住。

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