嶋浩一郎さんに聞く「PRパーソンがパブリシティだけをする時代は終わりました」

バナナの形を知り尽くしたから突破できた仕事

気になった箇所にはどんどん付箋を貼っていくのが嶋さんの読書法

PRの力で課題解決のブレイクスルーを導くために重要なのは、ディテール(細部)です。コミュニケーションの設計においても、まさに「神は細部に宿る」のです。

「ドール」の事例(2章)では、バナナにきれいに印字するために苦労したエピソードが出てきます。東京マラソンでゴールしたランナーに、完走タイムやSNS上の応援コメントをバナナの皮にプリントして「トロフィー」として渡す企画です。バナナの形はひとつひとつ違うので、うまく印字できず壁にぶち当たるのですが、数多くのバナナを徹底研究し、バナナの形状には大きく3つのタイプに分けられることがわかってブレイクスルーが見えてくる。

東北大学の事例(6章)では、岩手県や宮城県などの家庭に配られている「防災手帳」を制作する際に、「やぶれた紙幣をどのように交換するか」について盛り込まれた経緯について書かれています。持っていたお金が破れて使えなくなるなんて、普通の人には理解し難いことですが、震災を経験した人はそこにリアリティがあるわけです。

ちなみに、僕はものすごくディテールにこだわるタイプです。部下にとってはきっと面倒くさい存在ですが(笑)、PRパーソンにはそういう緻密な戦略立案も求められます。リアリティがあるからこそ、世の中を動かしていくことができるのです。

例えば、僕はテレビの改変期になると情報番組のエンドタイトルに流れるスタッフクレジットを全て書き写しエクセル化しています。ある商品の情報がこの番組に持ち込めるかもと企画を思いついた時、すぐに担当者が誰だかわかるからです。そういう、きめ細かい作業がPRの仕事の実行力を担保していくと思うんです。

PRパーソン“脱黒子”の時代へ!

この本を読んで、改めてPR業界から名前が知られる人材が続々でてきてほしいという思いをつよくしました。PRの仕事はかなり秘匿性の高い部分もふくみますし、日本においてPRが広告会社の一機能として発展してきた歴史的な背景もあり、PRパーソンは黒子であるべきという考え方も根強かったと思います。それが、美学でもありました。

しかし、その潮流は世界的にも変化しつつあると思います。2009年にカンヌライオンズにPRのカテゴリーがつくられました。最初の頃は広告会社の出品が多かったのですが、今では審査員も世界を代表するPRエージェンシーのCEOクラスが務め、2015年応募作品の半数がPR会社からになりました。こういう、国際賞の場で世界のPRパーソンとPRのテクノロジーを競いあうことができるわけです。

カンヌの受賞作品を見るとまさにこの本に出てくる事例のように、PRの仕事の多様さが理解できると思います。若手のPRパーソンはどんどん名前を売って「脱黒子」を目指し、さらによい仕事をとっていってほしいです。

事あるごとに言っていることですが、本質的な「PR」は広告よりも上位概念にあります。コミュニケーションの全体プランニングはPRパーソンがリードすべきだし、課題解決に取り組む経営者にとって、PRパーソンはいい相談相手です。これから多くの新しい才能が出てくることを期待したいです。


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