発売時にはシェアハウス5000人サンプリングも
日本のビール総消費量は540万7000キロリットルで世界7位だが、ビール系飲料市場はここ11年連続で減少が続く。なかでも「定番価格帯(スタンダードビール)」カテゴリーは、長く市場が停滞している。節約志向の継続や、チューハイやワインなどへの流出など、さまざまな要因が絡みあう。
それでも2015年は、0.1%ながら「ビール」の出荷数量が前年比でプラスとなった。前年比増は19年ぶりだ。大手4社がこぞって注力するカテゴリーだ。
サントリービールの定番価格帯「ザ・モルツ」は15年9月、同年内の販売計画を200万ケース(1ケースは大びん換算で20本)として発売した。その後1カ月で300万ケースに上方修正し、12月末には324万ケースと、さらに計画を上回る実績で着地した。「ザ・モルツ」の貢献もあり、サントリーは市場シェア15.7%と、過去最高のスコアを記録した。
同社は2016年、「ザ・モルツ」の年間販売計画を730万ケースとする。2月15日からキャンペーンを開始し、テレビCMを出稿。4月にも新CMのオンエアを控える。メインターゲットは20~40歳代。
消費者にとって、ビールといえば「仕事からプライベートへと切り替えるスイッチ」という印象が強かった。「とりあえずビール」という言葉が象徴するように、「なんとなく」「とりあえず」飲むものだった。
それが、「味わいを楽しんだり、シチュエーションを楽しんだりすることに、比重が移ってきた」と話すのは、サントリービールのマーケティング本部プレミアム戦略部で「ザ・モルツ」を担当する川合悠介氏だ。「『ザ・モルツ』の理想は、家族や仲間と楽しむ時間には必ずある存在になること」
では「ザ・モルツ」を飲むきっかけをどうつくるか。安価な「新ジャンル」は価格が購買のきっかけになる。反対に「プレミアム(高価格)帯」は、自分へのごほうび、あるいはお祝いに、といった需要もある。どっちつかずの定番価格帯は、明確な飲用のきっかけをつくるのが難しい。
「年々新商品を手に取っていただくハードルが高くなりつつあると感じています。それは、商品のバラエティが豊かになったからかもしれませんし、お客さまの好みが多様化しているからかもしれません」(川合氏)
そこで重視したのは、ソーシャルメディアとサンプリング施策だった。テレビCMや交通広告といった従来型の広告手法も活用したが、「メーカーからの発信が届きづらい場合もあります。今回は当社のほかのブランド以上にソーシャルメディアが重要だと考えました」。
最も特徴的なのは、複数人で一つの賃貸住宅を共有して暮らす「シェアハウス」でのプロモーション。ソーシャルメディア上の話題づくりと、試飲のきっかけづくりの一挙両得を狙った施策だ。
「『仲間と楽しむビール』とうたうだけでなく、実際にその飲用シーンに入り込んでいこう、という考えでした。そこで、全国のシェアハウスを対象に、発売時には100カ所5000人規模でサンプリングを実施しました」
この1月も、横浜市のシェアハウスでの餅つきパーティに、乾杯用のビールとして「ザ・モルツ」を配布した。
「シェアハウスの利用者は日常的にソーシャルメディアで情報発信される方が多いため、『ザ・モルツ』を飲んでいる場のよい雰囲気が発信されやすい。我々メーカーの言葉とは違った、素の言葉で紹介していただけることも魅力」
サンプリングは発売前に30万人規模で実施した。ここにもソーシャルメディアを絡めた。昨年7月中旬から8月、「ザ・モルツ」6缶を5万人にプレゼントするキャンペーンでは、Twitterでキャンペーン情報を投稿すると当選確率が2倍になる仕掛けも用意した。
サントリービールは2016年も、300万人規模プロモーションを実施する予定。「シェアハウス」でのサンプリングも、昨年の倍の規模で行う構想もある。
「2016年は定着に向け、『ザ・モルツ』を自分たちのためのビール、『Myビール』としてとらえていただけるようになりたい。キャンペーンや、サンプリング、飲用体験イベントなど種々の施策を展開する予定です。最終的には、私どもがご提案する価値にどれだけ共感いただけるか、そのためにお客さまの視座にどれだけ立つことができるか、が大切だと思います」
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