見た目の新しさだけでは
初速はつくれても続かない
平井:僕は長く名古屋に住んでいるので、大和屋守口漬総本家さんの存在感は十分理解していました。路面店も名古屋で随一の繁華街にありますし。ただ、最近手に取る機会が減っているとは思っていました。昔の人は三世代で住んでいたのでよく食べていましたが、最近は美味しいのはわかっているのに、食べるチャンスを失っていた。最初は、酒粕の香りが若い人にとってネックになっているのではと思い、「守口漬ライト」をつくったらどうでしょう?と話したのですが…、それはさすがに皆さんにスルーされてしまいました(笑)。
鈴木:ライトという話はありましたね。
平井:パッケージのデザインを変えただけでは瞬間的には売れても、すぐに失速してしまいます。ですから、デザインリニューアル以外のアイデアが必要だと考えてのことでした。
鈴木:デザインだけ、食材だけの新しさでは瞬間的には受けても、長続きはしない。当社で言えば、長年の歴史の中で練磨し続けてきた技術がすべての基本。この根本は守りつつ、そこに時代に合わせた新しい食提案を加えていくことが理想です。実は、ふりかけというアイデアは、以前からあったんですよ。でも本当にこれを売り出していいものか…という葛藤があって。従来のお客さまの期待を裏切ることになってはいけないという不安がありました。
コアな層から支持される
目指すレベルは常に100%
−お客さま視点を持ち続けてきたことが、長く愛されてきた理由でしょうか。
鈴木:お客さま視点と言えば、そうですが。確かにすべてのお客さまに満足をしてもらうことは大切ですが、マス受けを狙うのではなく、常に本当に、食にこだわるコアなお客さまを満足させられる商品をつくりたいと考えているところがあります。
平井:一般の人たちが、美味しいと思うレベルが70%だったとしても、常に100%のレベルを目指していくということではないかと思います。
鈴木:決して、コアなお客さま以外をないがしろにしているというわけではありません。そこまで品質にこだわりを持たなければ、いずれ一般の方々も離れていってしまうのではないかと考えているんです。
平井:大和屋さんが、規模の大きな会社ではないからこそ実現できている価値でもあると思います。規模が大きくなれば、販路が広がって、量を売らなくてはいけなくなる。そうすると、つくり方自体が、たくさん量を売るつくり方になっていきますから。
鈴木:そうですね。私は一つ、核となる商品があるブランドで、展開する事業の規模は100億円規模が、ちょうどよいサイズではないかと考えています。この規模がすべてに目が届き、また社員も自分たちの商品に責任をもってお勧めができるからです。大和屋の漬ける技術を生かし、魚介の味醂粕漬を提供する「鈴波」というブランドもありますが、大和屋や鈴波の規模をさらに拡大することを目指すより、新しい事業は鈴波のように違うブランドで展開していく方向で考えています。
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