「出産も仕事もマイペースを貫く」電通クリエーティブX 高野千砂さん

【前回記事】「「子どもと一緒に成長する。ママ6年目のアートディレクター」博報堂アイ・スタジオ 天野一記さん」はこちら

クリエイティブを一生の仕事にしたいと考える人に、今後のキャリアを支援するプロジェクト「しゅふクリ・ママクリ」。今回は、電通クリエーティブX東京本社で唯一のママディレクターとして活躍する高野千砂さんに、仕事観や育児スタイルについて聞いた。

仕事も出産もマイペースで

——CM制作の仕事を目指した理由を教えてください。

電通クリエーティブX 高野千砂さん

学生時代に映像制作のサークルに所属していたので、もともとCMに興味がありました。大学3年生のときに、電通のクリエーティブ塾に通ったことがきっかけで、CMプランナーになりたいと決意。広告会社やCM制作会社の採用試験を受けて、電通テック(電通クリエーティブXの前身)にご縁があり、企画演出職で入社しました。

仕事はハードで、夜遅くなることも多かったですね。はじめは先輩について、いろいろな企業のCM企画をひたすら考えました。一度の提案で最低3案は提出しないといけないので、過去の名作といわれるCMを研究したり、切り口やトーンを変えてみたり。アイデアがでなくても、無理やり提出して、直されて、また提出しての繰り返しで、自分の引き出しを広げていきました。

CMディレクターとしてデビューしたのは、入社3年目のころ。崎陽軒の横浜月餅のCMで、操り人形が大道芸っぽく踊っているという企画でした。私は「歌もの」が好きだったので、自分で作詞をして歌まで歌っています。

もともとCMの企画がやりたくてこの業界を目指しましたが、経験を積むうちにディレクターの仕事に魅力を感じていきました。企画はもちろんですが、編集や音楽を含めて企画の細部まで考えていくなかで、「こういうクリエイティブの形もあるんだ」と、気づいたのです。仕事としての映像制作の楽しさを、入社してから実感しています。
      
——結婚、出産から復職するまでのエピソードを教えて下さい。

大学時代に一緒のサークルで映像制作をしていた彼と、7年間お付き合いをして、25歳のときに結婚、26歳で第1子(長女)を出産しました。当時は、企画演出職で産休をとった社員はおらず、自分自身もディレクターとしてデビューしたばかりでしたので、一瞬、「辞めないといけないかな」と悩みました。

とはいえ、目指していた仕事ですし、育児と仕事の両立もやってみないと分からないと思いなおしたのです。1年4ヶ月育休をとり、1歳児で区立の認可園に入れて、復職しました。仕事復帰してから気づいたのは、会社のバックアップが整っているということ。子供が熱のときや夜に企画する必要があるときなども、裁量労働制なので、時間をうまく使って働くことができました。子供の小さい頃は本当に助かりましたね。ママとしての働き方を認めてくれている会社には、感謝しています。

企画演出職は若手のうちに電通に出向するという伝統があるのですが、私も1年間、電通の第5クリエーティブ局に行きました。ここではテレビCMの企画だけではなく、これまで全くやってこなかったコピーやバナーを考えるという、毛色の違う仕事を経験しました。特にラジオCMの企画は、テレビCMに近いのですが、音声だけで壮大な世界を想像させるようなラジオならではの表現ができるので、面白かったですね。

実は、このときに第2子の妊娠が発覚。出向から戻ったタイミングで産休に入りました。周りからは「マイペースだね」「腰が据わってるよね」などと言われましたが(笑)。

第2子(長男)は4月生まれだったので、0歳児で私立の認可園に入れて復職。しかし、3歳半違いの長女とは違う園だったので、2カ所の送り迎えの負担が大きくて。結局半年くらいで回らなくなって、長女を長男の保育園に転園させました。私立保育園のほうが延長保育の時間が長く、夕食も出してくれ、利用しやすかったですね。 

女性の感性とママならではの経験

——仕事の目標はありますか?また、高野さんの強みはどのようなところですか?

今後の目標は、とにかく「続けていくこと」。長女はこの4月から4年生になるので育児の峠は越えたかなぁと思っていますが、長男はまだまだ手がかかるので、これからもきちんと育てていかないといけません。CMの企画は日々の経験が生きますし、自宅で考えることもできます。女性やママをターゲットとした商品の場合、経験者だからこそつくれる企画もあると思います。「高野さんに」と指名をいただいたりすることもあるので、そういう仕事を大事にしたいですね。

最近の仕事では、赤ちゃん本舗のコーポレートメッセージムービー「スマイルな育児を。」が象徴的です。ウェブサイトとYouTubeで公開されている長尺のムービーで、赤ちゃんが生まれてから5歳になるまでの姿を、子ども目線で描いています。自分の体験談を映像にしただけなのですが、親であればきっと体験しているエピソードばかりなので、共感してもらえるはず。これを見たママは、みんな感動して泣くという、そこを狙っています(笑)。これはママでないと考えられない、私だからこそできた企画で、演出も自分の経験が形になっていると思います。      

私はキャラクターを考えることも好きで、ピンクリボンフェスティバルの乳がん検診を推進するムービー「パイ田姉妹のお願い」には、おっぱいを擬人化したキャラクターを登場させました。くまモンや人形劇などキャラクターものの依頼も多いですね。

インタビューの続きは 『しゅふクリ・ママクリ 』へ

高野 千砂(たかの・ちさ)

新卒で電通テックに入社して以来、演出部にて13年、主に映像作品のディレクター・プランナー業に従事。CM企画演出、長尺のVP、カット割り、コンテ書きなど幅広く担当。アパレル、教育、流通、食品、化粧品などおもに女性ターゲットやママターゲットの商品のプロモーション映像を制作することが多い。電通クリエーティブクロス 東京で唯一のママディレクターとして日々奮闘中。

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