『ほぼ日』のコンテンツのつくり方を、編集者とデザイナーに聞いてみた

幅広い読者から圧倒的な支持を誇る「ほぼ日刊イトイ新聞」。人気の理由は、読み物としての面白さだけでなく、良質なユーザー体験(UX )を追求したデザインへのこだわりにあるのではないか。そんな仮説のもと、雑誌『編集会議』では、「ほぼ日」のデザイナーと編集者にコンテンツ制作の裏側について聞いてみた。

※3月16日に発売された『編集会議』では「コンテンツ・ビジネス」を総力特集。

左から、東京糸井重里事務所 編集 菅野綾子氏、デザイナー 杉本奈穂氏、デザイナー 田口智規氏、デザイナー 岡村健一氏

あの記事はこうして生まれた

——ベストセラー『嫌われる勇気』の著者である古賀史健さんが、自身の記事で「バルミューダのパンが焼けるまで。」のコンテンツを絶賛していましたね。「公共財のようなお手本として記録しておいたほうがいいんじゃないか」と。

「ほぼ日刊イトイ新聞」を主宰する糸井重里氏と、バルミューダ⦆寺尾玄社長との対談記事コンテンツ。ネット上で話題に。

田口:ありがたいですね。あのコンテンツは菅野が記事を、杉本がデザインを担当しました。僕も気になるのですが、あれはどのようにつくったんですか。

杉本:対談のきっかけは、糸井(重里)が「バルミューダ ザ・トースター」を購入したことでした。「これはすごい商品だ」と社内でも話題になって。その後、糸井がバルミューダ社の寺尾玄社長とお会いする機会があったんです。社長同士が知り合いになり、さらに互いの社員同士も意気投合して「何かやりましょう」となって、自然とあの対談企画が生まれました。

菅野:寺尾社長と糸井の対談は、寺尾社長の一代記を糸井が聞き出すという流れでした。対談に同席しながら、記事にすれば、きっと“男子成長物語”のような読まれ方をするかもしれないと思っていたのですが、私としては、女性や食べ物が好きな方々にも読んでもらいたくて。対談の後は、Webサイトの「ほぼ日ストア」でのトースターの販売、TOBICHI(「ほぼ日」の実店舗)で読者に色々なパンを持ち寄ってもらって焼き比べるイベントも控えていたので、連載の1回目で「ゆくゆくは食べ物のコンテンツになりますよ」という予感をさせたかったんです。

田口:原稿を書く段階で、いつもデザインを意識していますか。

菅野:意識するときとそうでないときがあって、この対談は意識していたほうですね。「この部分であの写真がほしい」と思いながらつくっていました。寺尾社長の(笑)のタイミングで、その下に笑顔の写真が入るとか。「良かった!これ撮っておいてくれたんだ!」って。

杉本:あぁ、だからあんなに1枚目の写真にこだわっていたんですね。

菅野:そうそう。杉本さんに「1枚目は、絶対パンの写真にしてほしい」とリクエストしましたよね。

ライターの古賀史健氏は、書評ならぬネットコンテンツ評として「インターネット時代、縦スクロール時代の、構成のお手本」として、同コンテンツを絶賛。

杉本:実は私も使いたいと思って撮っておいたカットだったので、嬉しかったです。でも、写真の使い方にまで指示をいただくことは普段あまりないので、珍しいなと思っていました。

菅野:1枚目に寺尾社長や糸井のインタビューカットが入るより、パンの写真があったほうが、「自分にも関係のある話かもしれない」と思ってもらえると考えたんです。

杉本:私もあの対談は女性に読んでもらいたいと思いながら、デザインをした記憶があります。そのため、なるべく“やわらかい”イメージになるように心がけていました。

田口:袋文字のタイトルを見たとき、“やわらかさ”はすごく感じました。

岡村:インデックスにパンの絵を使っているのもそうですよね? 数字が増えるたびにだんだん焦げていくという……芸が細かい!

菅野:食欲がわくような色で全体が統一されていたり、フォントやイラストにも角がなく、丸みを帯びたものを採用しているのも、そうですよね。

杉本:はい。対談会場に大きなパンのイラストをプリントした幕を掲げて、寺尾社長と糸井にはその前で話をしてもらうように演出したのも、工夫の一つです。対談の様子を写真に収めるとき、自然と映り込みますので。でも、「ユーザー体験をデザインする」みたいなことは、あまり意識をしていないのが正直なところです(笑)。

記事に「臨場感」をもたらす

——デザイナーの担う役割の範囲が広いことが、「ほぼ日」の“読みやすさ”の所以なのかもしれませんね。

杉本:私たちデザイナーは、たいてい企画段階の打ち合わせから同席して、プロジェクトの最初から最後まで携わります。それは大きいですよね。

岡村:僕らの場合は、取材にも同席して、写真もデザイナーが撮るんです。そうすると、最終的なページのレイアウトをイメージしながら、必要な素材や配置を考えられる。話を聞きながら写真を撮っていても、相槌の「うん」が笑いながらしたものなのか、真顔でしたものなのか、覚えているんです。そのため、原稿に写真を組み合わせる段階になって、この相槌は笑顔の「うん」だったなと、写真を選ぶことができる。音源やメモといった情報でデザインをするよりも、自分が現場に居合わせて、対談の雰囲気を感じていたほうが、その場の臨場感を表現できると思います。

田口:たとえば、何かについて説明しているときに、「まるいのが」と話しながら動作をすれば、その動作を写真で押さえる。それで「まるいのが」の原稿の横に「まるいのが」と動作をしている写真を入れるんです。そうした瞬間を逃さないように、取材中はかなりの枚数の写真を撮っています。Web上で記事を読む読者にとっても、本当ならその対談に同席してもらうのがベストな体験だと思うんですよね。だからこそ、対談の現場に居合わせているかのような感覚を持ってもらえるデザインにしたい。そこはサイトをつくる上で強く意識しています。

杉本:デザイナーが企画の全体像を把握しているので、最終的なイメージを持ちながら、自分のなかで整理をしていくことができますよね。

菅野:編集側の視点で言うと、「ほぼ日」の記事は伝統的に相槌が多いと言われるのですが、それも臨場感を伝えるひとつです。やっぱり、相槌を入れたほうが対話する雰囲気が伝わるんですよね。読む人もそこで「うん」と言うだろうし、糸井も実際にそこで「うん」と言っている。原稿にまとめる立場として、その場の臨場感やリズムみたいなものを少しでも再現するために、あえて相槌を残しています。

続きは、3月16日発売の『編集会議』2016年春号をご覧ください。本誌では、『ほぼ日』に加えて、下記のコンテンツ制作の裏側も取材しています。

「編集会議」2016年春号はコンテンツ・ビジネスを総力特集

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菅野綾子
東京糸井重里事務所 編集

ほぼ日の読みものや書籍制作を担当。リアルタイムで更新する「テキスト中継」を年に何本も実施。蜂が好き

 

杉本奈穂
東京糸井重里事務所 デザイナー

商品企画、読みものページ、読者参加のイベントに関わるデザインなどを担当。台湾が好き。

 

岡村健一
東京糸井重里事務所 デザイナー

ほぼ日手帳や読み物などのWeb制作を担当。設計やデザイン、フロントエンド開発まで行う。みかんが好き。

 

田口智規
東京糸井重里事務所 デザイナー

商品開発やWebページのデザインを担当。都会より田舎が好き。

 

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