「高額所得者の大量集客」への挑戦—グリッツデザイン・日高英輝氏

sample3

株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第6号(2016年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

人々にとって真に価値のある商品・サービスを提供するためには、彼らの潜在的ニーズ=「インサイト」を発見し、それに応える方法を考え、具現化していく必要があります。クライアントと共に、これまでにない価値の創出に挑戦するクリエイターの洞察力に迫ります。

「高額所得者の大量集客」への挑戦

「パークコート赤坂檜町ザ タワー」Webサイトトップページ

流行の最先端をゆく東京ミッドタウンを眼前に臨み、檜町公園やミッドタウンガーデンの豊かな緑に囲まれた赤坂9丁目。そこに誕生する地上44階建のタワーマンション「パークコート赤坂檜町ザ タワー」のプロジェクトに、2014年夏から携わっています。言うまでもない好立地。そして全197戸という、都心のプロジェクトでは他に類を見ない規模。一戸の販売価格は全て億単位という高級物件で、建築家の隈研吾さんをはじめとするさまざまな著名クリエイターがチームに加わっている。非常に商品力のある物件でした。

目標は、全戸完売。とは言え、それだけ高価格帯の物件を買える人は当然限られている。高額所得者の大量集客が求められ、そこでは従来のいわゆる「リッチ」層だけではなく、新しい富裕層「ニューリッチ」層にアプローチする必要がありました。4年後に五輪を控えた昨今、マンション市場は活況です。しかし、そもそも、この物件を買えるようなお金持ちはそうそう現れないだろうし、たとえいたとしても、引越しを検討していたり、興味があるとは限らない。僕自身はニューリッチではない中で、「まだ見ぬ」というか、本当にいるかどうかわからない新しいターゲット層を見極め、掘り下げなければなりませんでした。

ある一定の個人に向き合う

そこで重要だったのが、クリエイティブチームのスタッフィング。若くて、かつ自身が住まいに対して強いこだわりを持っている、渡辺潤平さんにコピーライターとして参加してもらいました。アプローチの手法や表現を考える上で、どうしたら彼に響くのか、ということを一つの基準として見ることにしました。ターゲットをマスとして捉えるよりも、ある一定の個人に向き合って、「どう言えば響くか」「こう言ったらどう感じるか」を徹底的に考え抜くほうが、近道だと考えたのです。

そうして導き出したターゲット像は、「ひと・もの・ことに対して揺るぎない独自の価値観を持つ人」、そして「能動的に取捨選択をする人」。彼らには、形容詞を多用したイメージ訴求が中心の、従来型の不動産広告は届かない。そこで、「THE MID IN TOKYO(東京のど真ん中)」というタグラインを策定、商品自体にポテンシャルがあるこのマンションの特徴をストレートに訴求する「リアル訴求」という考え方を取り入れました。

ターゲットを販売センターにいかに呼び込むか、ということがミッションでしたから、DMやカタログなどのツールも、高級感は担保しながらも、いままでにないモダンでスタイリッシュなデザインを採用。また、彼らが能動的な情報探索を楽しめるようなWebデザインも工夫しました。広告宣伝のアプローチはスルーする一方、信頼する友人・知人からの推薦には重きを置く人たちですから、彼らが情報を自ら探しに行けるように、自然な情報接触の中で興味・関心を持ってもらえるように、コミュニケーションを設計することが重要だと考えたのです。

その結果、2015年10月に販売センターを開設してから約4カ月で、部屋はほぼ完売しているとのことです。商品自体が持っている魅力もさることながら、会社や社会を動かす立場にいる、プライドが高く前向きなターゲットに、「THE MID IN TOKYO」は非常に伝わりやすいメッセージとして機能したのではないかと思います。

どんなプロジェクトにおいても、ターゲットインサイトは想像するしかないし、アプローチは仮説を立てて挑むしかない。今回は、既存ターゲットではない、新しいターゲットを想定しなければならなかった点でチャレンジングではありましたが、ターゲット像をイメージすること自体は、比較的、容易だったと感じています。なぜかというと、いまの時代は若い実業家の活動が目立っていて、インターネットを見ているだけでも、行動特性や志向は見て取れます。そういう方々は、受け身ではまったくなく、非常に能動的。情報に対して常にアンテナを張っていて、独自の強いネットワークを持っています。そうした人たちの行動をリアルタイムに観察し、俯瞰しながらコミュニケーションデザインをチューニングできたことは、プロジェクト成功のカギになったと思います。

日高英輝
グリッツデザイン

1962年宮崎県生まれ。ドラフトを経て、2001年グリッツデザイン設立。


mikkion-under

「100万社のマーケティング 2016年3月号」発売
購入ページはこちら ▶
特集ページはこちら ▶

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ