テレビでドキュメンタリー番組を制作してきた是枝監督が、2015年春から手がけているのが、伊藤忠商事の企業広告シリーズ、そして同社によるミニ番組「きょうの、あきない」だ。どちらもカメラが追いかけるのは、タレントでもなく、著名人でもない。あくまでも普通の人たちだが、彼らの何気ない日常に物語を見つけてきちんと描いている。新作公開を控えた是枝監督に、これらのCM、番組制作における“ドキュメンタリー”について聞いた。
——日本アカデミー賞4冠、おめでとうございます。受賞後のご感想を。
はい。ありがとうございます。あんなふうにスタッフ、キャストがまた集まって笑い合えるというのは、本当に幸せな体験です。
——是枝監督が手がける伊藤忠商事の企業広告、TBSのミニ番組「きょうの、あきない」、どちらもドキュメンタリー映像ですが、開始から間もなく1年を迎えます。
「はじめての使命」というCMシリーズは、伊藤忠商事の企業広告シリーズの第3弾。僕が参加する以前に、社員の顔をイラストで描いた新聞広告「ひとりの商人」、事業内容を描いた新聞広告「6つの使命」をそれぞれシリーズで展開していて、クリエイティブディレクターの一人、葛西薫さんがディレクションしたCMをティザー的にオンエアしていました。
葛西さんからは「すでにある形を受け継いでいただいてもいいし、全く新しくしても結構です」と、CMのディレクションを委ねられました。ちょうどオンエアが4月開始ということもあり、「それならば入社式からスタートして、新入社員がだんだん成長していくのを縦軸にした“ドキュメンタリーCM”をやってみてはいかがでしょうか」と提案したのが始まりです。それと同時に開始したのが、同社が提供するミニ番組「きょうの、あきない」(TBS)です。
——CMでは4月に入社したばかり新入社員を撮影し、それを4月中にオンエアしたのには驚きました。
お話をいただいたときに、すぐに入社式を撮ることを決めました。入社式の2か月くらい前に、新入社員が集まる日があったのでスタッフが見学に行き、ビデオを撮って、どの子にするかを絞り込みました。僕も面接をして、CMに登場してもらった3人を選びました。選んだポイントは人間的にキャラクターが立つ子ですね。
仕事ができる子はたくさんいると思いますが、完璧すぎると隙がなくて、撮っても面白くない可能性もある。とにかく入社式までが勝負だったから、3月から撮影を開始。カメラを何台も出して、引っ越しも撮影して…と現場は大変でした。でも、これはすぐに放送しなければ意味がないと思いました。